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【新連載再改訂】41.抗インフルエンザ薬の副作用

 2019年に、バロキサビルマルボキシル(商品名:ゾフルーザ)の出血などの副作用報告が寄せられましたが、まだ不明な点の多い薬剤です。医師は副作用かどうかは不明と判断した症例であっても、同様の症例が発生する恐れもあり、本項で紹介しています。
 2020年10月5日「民医連新聞」掲載記事副作用モニター情報〈542〉 バロキサビル(ゾフルーザ錠)服用後の肝障害と横紋筋融解を追補して2020年11月9日に更新しました。

副作用モニター情報〈209〉 オセルタミビル(商品名タミフル)の副作用
 2004年のインフルエンザ流行期に、オセルタミビル(以下タミフル)が関与した可能性がある副作用報告がありました。
  35度以下の低体温を認めた症例が3例。また悪夢・寝汗が1例報告されました。どの症例も成人ですが、小児や高齢者では特に注意が必要です。症例は、比較的早く症状に気づき、いずれも服用中止で回復しています。
 小児での症例を紹介します。
(症例)5歳女児、体温39.7度、喉の腫れ・頭痛・咳、臨床症状よりインフルエンザを疑い、タミフルDS・カロナール服用開始。服用初日から嘔吐があり、2日後からは腹痛・下痢症状も出現。服用3日後には、口の周りに湿疹が現れ、口内炎も認められたが服用継続。服用終了後6日で回復。
 消化器症状についてはインフルエンザ症状の悪化とも考えられますが、発疹・口内炎は継続服用中に悪化傾向が見られたとのことです。タミフルが、インフルエンザ治療の必須薬剤でないことを考えれば、副作用症状に気づいた時点で服用中止すべきでしょう。
 このほか、不整脈類似の胸部不快感1例(成人)、発疹1例(小児)ありました。
 厚生労働省の「医薬品等安全情報No.202」でも同剤の副作用報告があり、肺炎と精神神経症状の副作用が、重大な副作用として追記されています。メーカー への副作用報告数は100例以上になっているとのことです。7月には予防投与の適応が通りました。処方・服薬指導ではいっそうの配慮を心がけましょう。

(民医連新聞 第1341号 2004年10月4日)より一部改変

 タミフルの異常行動については2007年に死亡症例が報告され、緊急安全性情報が発出されていますが、その3年前に悪夢などの報告が当モニターにも寄せられていました。低体温もタミフルの中枢神経系への移行を示唆するものです。

副作用モニター情報〈231〉 タミフルによる重篤な副作用~幻覚の発現に注意を~
[前文略]

(症例)12 歳男児、61kg。38.2℃の発熱があり、タミフル150mg/日を5日間処方され服用開始。いったん就寝したが、服用から約12時間後の夜間に起きて走ったり、「大きい指が見える」と叫ぶなど興奮した様子だった。翌日、解熱したが「変な音が聞こえる」と訴え泣く。3日目、親が添い寝し、症状はなし。その後 は症状なく、薬剤は飲みきった。

*    *

 インフルエンザは基本的には自然治癒する疾患です。インフルエンザ発症時(48時間以内が適応)に症状軽減を必要とするのは、高齢者や呼吸器・心疾患な どの重篤な疾病をもっているケースに限られます。しかし、昨シーズンは、予防投与が認められた影響もあってか、世界の全生産量の70%が日本で消費されました。インフルエンザの正しい予防・対処法を普及、使用対象を再度見直す必要があります。

https://www.min-iren.gr.jp/?p=12143
(民医連新聞 第1364号 2005年9月19日)より

 緊急安全性情報の発出を受け当モニターにも報告が集積されるようになりました。県連単位で聞き取り調査を行うところもあったようです。報告を受け中枢神経系の副作用のまとめが掲載されました。

副作用モニター情報〈254〉 タミフルによる中枢神経系の副作用について~その1~
 タミフルによる睡眠中の突然死、異常行動による事故死がマスコミに取り上げられ、問題になっています。先日も沖縄で、中学生がタミフル服用後に転落死した、との報道がありました。
 厚生労働省は、ホームページのQ&Aなどでタミフルとの因果関係は否定的としていますが、医薬ビジランスセンター代表の浜六郎氏は、「これらの事象はタミフルによる中枢抑制作用の発現に基づく副作用の疑いが強い」として、動物実験の結果や国内症例の疫学的調査にもとづいた考察を発表し、警鐘を鳴らしています。
 全日本民医連の副作用モニターには、2002年から2006年の第一四半期まで、タミフルを被疑薬とする副作用報告が92件よせられていました。このうち精神神経系の副作用と考えられる症例が37件。ほかは発疹などの過敏症や口内炎、嘔吐、下痢、腹痛などの消化器症状が主なものでした。後文略

https://www.min-iren.gr.jp/?p=13529
(民医連新聞 第1389号 2006年10月2日)

副作用モニター情報〈255〉 タミフルによる中枢神経系の副作用について ~その2~
 〔症例〕未就学男児。タミフルを服用した6時間半後、40度の熱が続くため、カロナールを内服。その2時間後、熱は38.4度まで下がっていたが就寝中に突然騒ぎ出し、おびえてけいれんを起こす。目の前を手で払うしぐさをする。その状態が5分ほど続く。以降、服薬を中止する。
 そのほか、ウトウトした状態で暴れる(未就学児)、服用後に眠気、24時間寝たまま (20代女性)、意識障害、名前を呼んでも反応不良(5歳男子)などの中枢抑制状態の症例や、服用後の悪夢(2件)、手の痺れや手のふるえ(2件)、味覚 異常(1件)、物が小さく見える、斜めに見える、目がチカチカするなどの視覚異常(2件)、頭痛(1件)、不眠(1件)などの報告がありました。

*    *

 ほかにも嘔吐や吐き気など消化器系の副作用が13件報告されており、中枢神経系(脳圧亢進など)による症状の可能性も否定できません。
 タミフルがインフルエンザ罹患時に脳内に移行し、中枢神経系を抑制し、呼吸抑制や異常行動死などを引き起こすことを否定できません。
 インフルエンザのシーズンを前に、タミフル使用の適否の検討、患者への十分な説明と同意、服用後のモニターが必要です。副作用報告とあわせ、タミフルの処方ルールなどの試みをお寄せください。
(民医連新聞 2006年10月16日)

副作用モニター情報〈311〉 リレンザ(抗インフルエンザウイルス吸入剤)による異常行動にも注意を
 タミフルと同様にリレンザについても2008年度、当モニターに異常行動が2件、幻覚が1件報告されています。吸入剤といえども体内に吸収され、タミフルと同様の副作用が発現する可能性は否定できません。
【症例1】小学生の男子。リレンザ初回吸入の約3時間半後、入眠中に検温のため声をかけ体に触る と、突然起き上がり目を見開き、うなり声を発して苦悶。数秒後、急に立ち上がり2階に勢いよく駆け上がった。再び布団に横たわったが、声をかけると突然起 き、目を見開き興奮した様子で「死ぬ、死ぬ、みんな死ぬ。赤い大きなものが近づいてくる」と言うなど意味不明な言動が数分つづく。その後、眠れないと言い、ビデオをつけ、じっと見つめているが反応なし。再び入眠したが、30分後に起き、座って目を見開き何かを見つめながら怖がる仕草がつづいた。翌日、覚醒した後は普通の状態に戻り、前夜のことは覚えていなかった。その後、リレンザの吸入をつづけたが、異常はみられなかった。

【症例2】10代男子。リレンザ初回吸入後、入眠。吸入の約5時間半後、急に起き出し母親の上にドンと座ったり、物を蹴ったり、おかしな行動・言動が出現した。翌日は解熱し症状も改善したためリレンザは中止した。
 [後文略]

https://www.min-iren.gr.jp/?p=13386
(民医連新聞 第1453号 2009年6月1日)

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 オルタセミビルの異常行動については、緊急安全性情報発出後「インフルエンザそのものの病態ではないか」「異常行動を起こした患者とオルタセミビル服用の有無は関連しない」などの意見が出され、添付文書の10才代の禁忌取り消しも議論されましたが、民医連としては当モニターに集積された症例をもとに、禁忌記載の継続を訴えメーカー交渉を行いました。
 透析・腎機能低下時に異常行動が頻発したことから、血中濃度の上昇など中枢移行量が上昇した場合、インフルエンザそのものではなくこの薬剤で発症する可能性が強く、現在でも10才代の原則禁忌は継続されています。それ以外の世代でも注意すべきであることは言うまでもありません。新型インフルエンザがセンセーショナルに取り上げられ、抗インフルエンザ剤が大量に使用され、当モニターでも使用後調査に取り組み、下記の記事を発表しました。薬剤の構造と精神症状と関連も考察しました。
副作用モニター情報〈350〉 タミフル、リレンザ(抗ウイルス剤)の副作用
 2009~2010年は新型インフルエンザが大流行しました。タミフルやリレンザの使用量も非常に多く、たくさんの加盟事業所に副作用調査に協力していただきました。2009年から2010年までに当モニターに寄せられたタミフル141例とリレンザ20例の副作用を、大まかに表にまとめました(=重複を含み、少数の症状は除く)。

 個々の症例を検討すると、まず、服用直後から嘔吐、吐き気、腹痛が生じます。そして睡眠に 入ると、(1)夢を見ているように寝言を言う、笑ったり泣いたり、叫んだりする、(2)幻覚や幻聴を訴える、(3)足をバタバタさせたり起き上がったり、 暴れたり外に出ていこうとする、という一連の中枢症状が起きます。間もなく下痢を起こし、2日目以降から低体温になる、という経過をたどる傾向があります。(1)(2)(3)は異常行動に関連する状態として、ひとくくりの副作用としてとらえる必要がありそうです。
 また、タミフル・リレンザについて、当副作用モニターとは別の副作用調査を2009年12月7~19日に行い、寄せられた301例のデータを解析し、医療薬学会で発表しました。結論は、タミフルによる頭痛、吐き気の症状には、薬剤の骨格が関与している可能性があるというものです。副作用の機序は、同薬のセロトニン類似骨格が、消化管では5-HT 3、5-HT 4受容体を刺激して吐き気、嘔吐、下痢を引き起こし、中枢では5-HT 2A/2C、5-HT 1A受容体を刺激して幻覚、異常行動、低体温を引き起こすと推察できます。
 セロトニン類似構造があり同様の作用を起こす化学物質として、マジックマッシュルームなどの毒キノコに含まれるシロシビンやLSDが知られています。薬剤ではブロモクリプチンやテトラミド、マイスリーが、幻覚、就寝後の夢遊病(摂食行動)の副作用を生じます。
 タミフルやリレンザ、おそらくイナビルも、セロトニン類似構造による副作用の可能性が高いと推定できます。
(民医連新聞 第1497号 2011年4月4日)

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 その後、注射剤や単回投与製剤も発売されるようになり、当モニターにそれらの報告が集積されてきています。注射製剤ペラミビル(商品名ラピアクタ)は、注射製剤で、単回投与が可能ということで、特に経口困難な高齢者や乳児に使用されているのではないかと考えられます。しかし、代謝されることなく未変化体で腎臓から排泄されるため、排泄量が腎機能と比例します。(タンパク結合もほとんどないためクレアチニンと同じような動態を示す)本来減量しなければならないのに通常用量を投与した場合、重篤な有害事象が発言する可能性があります。高齢者は筋肉量が少なく、添付文書の減量の判断基準とされるクレアチニンクリアランスが血清クレアチニン値から算出した場合実際より高く出る場合があるので注意が必要です。

副作用モニター情報〈408〉 ペラミビル水和物注射液による重篤な副作用症例
 ペラミビル水和物注射液(商品名:ラピアクタ点滴静注液バッグ)は、他の抗インフルエンザウイルス剤と同様に、インフルエンザウイルスのノイラミニダーゼを選択的に阻害、感染細胞の表面から子孫ウイルスが遊離する過程を抑制して、ウイルスの増殖を抑えます。
 内服や吸入が困難な状態の症例にも投与が可能な製剤として、2010年1月に販売が開始されました。
 海外では、米国において「緊急時使用許可(Emergency Use Authorization:EUA)」が2009年10月に発行されました が、2010年6月に終了しており、その後は販売されていません。現在、ラピアクタ点滴静注液バッグが販売されているのは日本と台湾だけです。
[後文略]

https://www.min-iren.gr.jp/?p=4557
(民医連新聞 第1564号 2014年1月20日)より

副作用モニター情報〈425〉 抗インフルエンザウイルス薬ペラミビル施行患者の死亡
 ペラミビル(製品名:ラピアクタ)は2009年に承認されました。1回の点滴ですみ、内服や吸入が困難でも使用できるため、高齢者や幼児への使用が多いと考えられます。300mgの点滴静注用バッグと150mgのバイアルがあります。
 今回、ペラミビル施行後に死亡した症例が2例報告されました。
症例1) 90代 女性、体重34kg
 点滴5日前:3日前から鼻水がでる。血圧140/50、体温35.6度。香蘇散7.5g(分3)14日分処方。
 前日から熱、頭痛、鼻水、朝から足がだるくて動けないとの訴えで受診。インフルエンザ検査A(+)ペラミビル300mg点滴。クレアチニン:1.2mg/dl
 点滴翌日:未明に死亡したと連絡あり

症例2) 90代 女性、体重40kg
 発熱、体温38.1度。外来に救急搬送。血圧150/80、インフルエンザ迅速キットではA、Bともに(-)だったがインフルエンザとして対応することとし、ペラミビル300mgを点滴。血清クレアチニン(mg/dl)1.33
 点滴翌日に、電話で家族に様子を聞くと「食事も摂り、いつもと変わりない。熱は測っていないが体熱感はない」との話だった。
 点滴から2日後の午後4時に急に低体温となり救急搬送したが心肺停止。死体検案となり「心不全」と診断された。
 体内に入ったペラミビルは代謝を受けず腎臓から排泄されます。腎機能が低下している場合は排泄しにくくなるので、高い血中濃度が続きます。今回の場合、クレアチニンクリアランスは20ml/分程度だったと考えられます。患者は低体重であり、AUC(血中濃度-時間曲線下面積:薬剤の血中濃度と持続時間の 指標)は通常の10倍程度になっていたと推察されます。添付文書では、クレアチニンクリアランスが30ml/分以下では、通常300mgの用量を 50mgに減量することになっています。
 承認時資料では、臨床試験で反復投与や高用量(600mg)でも安全性には特に問題はなかったとされており、死亡の原因を過量のためと結論づけるのは難しいかもしれません。
 近年、使用が簡便なワンバッグ製剤(希釈済みのバッグ製剤で、そのまま点滴可能)が増えています。しかし、必ずしも1バッグ=1人分ではありません。ペラミビルのように腎機能による調節幅が大きい薬剤で、プライマリケアで汎用される可能性の高い薬剤の場合は、採用には特に注意が必要です。事業所によって は、バイアル製剤のみ採用し、処方の際はクレアチニンクリアランスによる用量調節基準が表示されるようにしています。
(民医連新聞 2014年10月20日)より一部改変

副作用モニター情報〈424〉 イナビルの多様な副作用
 イナビル吸入用粉末剤20mg(一般名:ラニナミビルオクタン酸エステル水和物)は、日本で開発された長時間作用型ノイラミニダーゼ阻害剤です。 同効薬のリレンザ(ザナミビル)が1日2回5日間吸入する必要があるのに対し、本剤は一度の吸入で治療が完結することから、リレンザに代わって使用量が増 えています。
 2013~14年シーズンに民医連の副作用モニターに寄せられたイナビルの副作用報告は、以下の4件です。
症例1) アナフィラキシー(60代男性)
 吸入直後、首をうなだれて突然意識を消失、名前を呼んでも反応なし。背中をたたくと反応し意識が戻ったが、顔面蒼白、冷や汗をみとめ、ろれつも回っていなかった。血圧90/60、脈拍80、補液投与にて2時間後には血圧120/64、意識も完全に回復した。
症例2) 異常行動(10代女性)
 吸入から約12時間後に異常行動(胸が膨れる感じ、動悸、走り出したい感じ等)が出現。約15分程度でおさまった。
症例3) 幻視・不眠(70代男性)
 吸入から約6時間後、眠ろうとして目をつぶったところパソコンやテレビの画像のようなものが見えて眠れなかった。翌日も前日同様、目をつぶると画像が見えて、朝方まで眠れず。3日目以降症状は出現せず回復した。
症例4) 肝機能異常・水様便・腹部膨満感(20代女性)
 吸入の翌日から、水様便・腹部膨満感が出現、回復まで約1週間を要した。吸入8日後の採血で肝機能異常(AST/ALT44/48)が指摘され、経過観察。約1カ月後に正常値に戻った。

*           *

 いずれの副作用でも添付文書で注意喚起がされており、アナフィラキシーを除くと軽微なものですが、発現の仕方は多様です。治療は単回吸入で終了します が、体内から完全に消失するまでに12~14日かかると推定されるため、吸入後の副作用の発現とその対応に注意が必要です。
 同剤は、日本ではタミフルとの比較試験で非劣性が示され承認されましたが、欧米ではプラセボとの比較試験で有意差が示せず開発が断念された経過があります。また、タミフルやリレンザのコクラン共同研究の結果で、インフルエンザ症状の発現期間をわずかに縮めるだけだということにも留意が必要です。 

★新規発売薬剤、ゾフルーザⓇについての副作用の情報。2018年に新規発売され、1回のみ服薬でインフルエンザ治療が出来ると言う薬剤です。2018~2019年シーズンのインフルエンザ治療には非常に頻用されましたが、下記のような副作用に、注意が必要です。

副作用モニター情報〈507〉 抗インフルエンザウイルス剤 バロキサビル製剤「ゾフルーザ」
 インフルエンザのシーズン到来です。インフルエンザワクチンの不足やタミフルの10代投与原則禁忌解除など、心配になる話題が続きます。なかでも関心を集めているのが、革新的新薬として「先駆け審査指定」で承認された抗インフルエンザ剤「ゾフルーザ」でしょう。新薬モニターには3県連から評価結果が寄せられ、報告には至らないものの、各県連・地協でも評価にとりくんでいます。
 最も注意が必要と指摘されたのが、65歳以上の高齢者とハイリスクの基礎疾患を有する患者への臨床試験が未実施のため、本来必要な人に対する効果と安全性が未確認ということです。発売から5カ月時点の市販直後調査には、死亡、アナフィラキシーショック、急性腎障害などの生命にかかわる重篤な副作用が報告されています。1回だけの服用で済む反面、薬剤の90%を排泄するのに432時間が必要で、副作用に遭遇すると回復に長い時間がかかります。肝機能障害関連事象は、服用15日以降も発現すること、1回量の1.8倍で発現(実験動物はサル)していること、プロトロンビン時間の延長(ラット)が認められていることから、血液凝固因子の産生が落ち、ワルファリンと相互作用を起こすなどの懸念が出ています。
 効果は、オセルタミビルと同様に発熱時間の平均値が約53時間で、偽薬群と比べ約26時間短縮するだけです。発熱時間は、インフルエンザに感染した細胞が炎症性サイトカインのTNF-α・IL-6・IL-1βなどを分泌、いくつもの過程を経て応答を受けたT細胞によって除去されるまでの時間なので、ウイルス量を素早く減少させても発熱期間をこれ以上短縮できないと分析しています。
 また、ウイルスが細胞の外に排出される量が減少することで十分に抗体が産生されず、同シーズンに再感染を起こす可能性も指摘しています。耐性ウイルスについても指摘があり、A型は少なく見積もっても2015~16年で0.99%、16~17年で10.6%(12歳未満では17.9%)と、すでに耐性化がすすんでいます。過度な期待は禁物です。
(民医連新聞 第1680号 2018年11月19日)

副作用モニター情報〈512〉 抗インフルエンザ剤バロキサビル(ゾフルーザ)と凝固能異常~ワルファリンとの併用を避けよ~
 この副作用モニター情報507回(本紙2018年11月19日付に掲載)で指摘したゾフルーザとワルファリンの相互作用への懸念が現実となってしまいました。
症例1) 80歳代前半、女性。体重
47kg、身長150cm。基礎疾患は心不全、アルツハイマー型認知症など。ワルファリン1mg、葉酸5mg、ランソプラゾール10mgを服用中。
 発熱翌日、往診でインフルエンザAの診断、ゾフルーザ40mgを服用。
服用1日後:食事摂取困難のため補液1000mL、アセトアミノフェン錠200mg/発熱時、ミノサイクリン100mgを1日2回で開始。
服用2日後:解熱、回復。
服用6日後:淡血性尿を確認。
服用8日後:血尿が徐々に悪化、ワルファリン中止。
服用9日後:病院に救急搬送。PT=83.8秒、INR=8.06、APTT=88.3秒、尿沈渣赤血球≧100/HF。血清アルブミン値2.5g/dLと低値。肝機能、腎機能には問題なし。ミノサイクリン中止。ビタミンK110mg×2を静脈内投与。
服用10日後:PT、INR、APTT測定不能。血清フィブリノーゲン486mg/dL。ビタミンK110mg×2を静脈内投与したが無効、ビタミンK依存性凝固因子以外の障害を懸念し、新鮮凍結血漿5単位を投与。
服用11日後:INR=1.13、APTT=34.8秒、と回復。
 新鮮凍結血漿投与前の凝固因子活性はATIII=75%、第V因子=100%、第X因子=37%、第XIII因子=86%で、第X因子の活性だけが顕著に低下していた。

* * *

 第X因子活性の大幅な低下の原因として、低アルブミン値から推定される栄養状態の不良、食事摂取困難、ミノサイクリン内服などの影響は否定できませんが、ゾフルーザを投与した絶食ラットでPT延長(ビタミンK投与例はPT延長なし)が確認されていることから、ワルファリンとゾフルーザの相互作用が最も疑わしいです。ただ、本症例が示すように、ヒトの場合はビタミンK1を40mgも投与して無効だったことから、Xa阻害剤服用者も含めた抗凝固剤の服用者に対して、ゾフルーザを服用した場合の出血傾向増大への警戒が必要でしょう。
(民医連新聞 第1687号 2019年3月4日)

副作用モニター情報〈528〉 バロキサビルマルボキシル(商品名:ゾフルーザ)による出血の副作用について
 1回投与の簡便なインフルエンザ治療薬として発売されたバロキサビルマルボキシルですが、ワーファリンとの相互作用の出血に加えて、単独投与での出血がある事も分かってきました。今回はそのような症例の紹介です。
症例)30歳代、女性
 前日 夜間勤務中、鼻水が突如出始める(鼻血なし)。
当日、朝に37度台の微熱があり、仕事を欠勤。アセトアミノフェン400mgを服用。その後、熱は38.7度になり、近医に受診。その時の熱は39.3度であった。インフルエンザAと診断され、バロキサビルマルボキシル処方され、薬局にて薬を受け取り帰宅後2錠内服した。夜間就寝中、腹痛が有り起きてしまい、トイレにて改善。その時点で、熱36.8度まで下がる。1日後 朝から平熱。
 鼻血はいつから出たかは不明だが、毎日鼻を2~3回はかむ。その時に鼻水をかむというより毎回血をかんでるような感じで驚いたのを覚えている。でも鼻血がたれてきたりする事はなく、一時的なものだろうと最初はあまり気にしていなかった。何週間も続いて心配になったが、鼻血(しかも垂れてこない程度)で受診するのも気が引けるのと、日々の忙しさにそのままに。3月に入って花粉症で鼻をかむ回数が多くなっても鼻血が出なくなっている事に気付いた。鼻をかんで鼻血が出た期間は2~3週間くらいだと思う。
 (併用薬は、小青竜湯とオロパタジン、アセトアミノフェン)
★添付文書の「重要な基本的注意」に記載
 バロキサビルマルボキシルは、[重要な基本的注意]の項に「出血があらわれることがあるので、患者及びその家族に以下を説明すること。
1)血便、鼻出血、血尿等があらわれた場合には医師に連絡すること。
2)投与数日後にもあらわれることがあること。」が追記されている。(2019年3月1日)
 これからインフルエンザシーズンを迎えますが、バロキサビルマルボキシルを服用する際には出血の副作用がある事に留意し、症状があった場合には医師に伝えて下さい。

(民医連新聞 第1703号 2019年11月4日)

副作用モニター情報〈542〉 バロキサビル(ゾフルーザ錠)服用後の肝障害と横紋筋融解
 今回は、バロキサビルによる肝障害とそれに起因した併用薬の副作用増強による横紋筋融解症が疑われる症例です。
症例) 60代後半女性。基礎疾患は汎下垂体機能低下症、MMP-3上昇。併用薬はチラーヂンS、プレドニン、リピトール、ノイロビタン、ムコスタ、アレジオン。
 インフルエンザに罹患(りかん)した孫の世話をし、吐き気、おう吐、下痢を発症。2日後の日中に受診し、インフルエンザAの診断。輸液の点滴は血管確保ができず断念。ゾフルーザ、ミヤBM、カロナール、ナウゼリンを処方され帰宅、内服を済ませた。しかし、トイレに行くときに転倒し動けなくなり22時に救急搬送された。
 搬送時、体温36.2℃。血圧86/50mmHg、脈拍82bpm。血液ガス分析pH=7.159、PCO222.1mmHg、PO282.7mmHg、BE-18でアシドーシスを確認、末梢チアノーゼあり。血液検査データは、トロポニンT陽性、AST757、ALT469、CPK2000、CK-MB141、BUN48.5、Cr6.3、Na133、K5.3、WBC10500、Plt26.3。心電図上V3-V4にST低下あり。
 搬送4時間後、酸素3L/分開始。黒色吐物少量、黒色水様便多量。オメプラゾール注開始。
 搬送7.5時間後、尿量低下、フロセミド投与、ドパミン持続点滴開始。
 搬送9時間後、体温39.4℃。血液ガス分析pH7.34、PCO233.6mmHg、PO2476.4mmHg、BE-5.7、AST1000、ALT1000、CPK2000、BUN57.9、Cr7.2、Na148、K3.7、CRP21、WBC7700、Plt26.3。
 搬送15.5時間後、永眠。
 黒色水様便はバロキサビルによる消化管出血の可能性があります。アシドーシスは、心電図から心筋梗塞の診断ではないのですが、血液検査の結果は心筋梗塞と心原性ショックで説明可能です。CPK上昇については、転倒による筋挫滅で説明できますが、2000という高値になるには、転倒後の時間経過だけでなく、服用していたリピトールの作用がバロキサビルによる肝障害によって強力になったことも一因として考えられます。
 インフルエンザによる死亡か薬剤によるものか、判断できませんでしたが、このような経過をたどることがあるかもしれず、併用薬にも注意しバロキサビルの投与を考慮するのが無難と思われます。

(民医連新聞 第1723号 2020年10月5日)

■画像提供 山梨民医連
http://www.yamanashi-min.jp/2016_yakuzaishi-bosyu/HTML5/pc.html#/page/1

■副作用モニター情報履歴一覧
http://www.min-iren.gr.jp/ikei-gakusei/yakugaku/zy1/k02_fukusayou/

■「いつでも元気」くすりの話し一覧
http://www.min-iren.gr.jp/?cat=26

■薬学生の部屋
https://www.min-iren.gr.jp/ikei-gakusei/yakugaku/index.html

**【薬の副作用から見える医療課題】**

 全日本民医連では、加盟する約640の医療機関や354の保険薬局からのデータ提供等を背景に、医薬品の副作用モニターや新薬評価を行い、およそ40年前から「民医連新聞」紙上(毎月2回)などで内外に情報発信を行っております。

<【薬の副作用から見える医療課題】>
  1.民医連の副作用モニターとは~患者に二度と同じ副作用を起こさないために~
  2.アルツハイマー治療薬の注意すべき副作用
  3.味覚異常・聴覚異常に注意すべき薬剤
  4.睡眠剤の注意すべき副作用
  5.抗けいれん薬の注意すべき副作用
  6.非ステロイド鎮痛消炎剤の注意すべき副作用
  7.疼痛管理に使用する薬剤の注意点
  8.抗パーキンソン薬の副作用
  9.抗精神薬などの注意すべき副作用
  10.抗うつ薬の注意すべき副作用
  11.コリン作動性薬剤(副交感神経興奮薬)の副作用
  12.点眼剤の副作用
  13.消化器系薬剤の様々な副作用
  14.ジゴキシン(強心剤)の注意すべき副作用
  15.抗不整脈薬の副作用
  16.降圧剤の副作用の注意点
  17.トリプタン系薬剤(片頭痛治療薬)の副作用について
  18.脂質異常症治療薬の副作用について
  19.喘息及び慢性閉塞性肺疾患治療薬の副作用
  20.潰瘍性大腸炎治療薬の副作用
  21.抗甲状腺ホルモン剤チアマゾールによる顆粒球減少症の重症例
  22.過活動膀胱治療薬の副作用
  23.産婦人科用剤の副作用
  24.輸液の副作用
  25.鉄剤の注意すべき副作用
  26.ヘパリン起因性血小板減少症
  27.高尿酸血症治療薬の注意すべき副作用
  28.糖尿病用薬剤の副作用 その1
  29.糖尿病用薬剤の副作用 その2
  30.糖尿病用薬剤の副作用 その3
  31.抗リウマチ薬「DMARDs」の副作用
  32. ATP注の注意すべき副作用
  33. 抗がん剤の副作用
  34. アナフィラキシーと薬剤
  35.重篤な皮膚症状を引き起こす薬剤
  36.投注射部位の炎症等を引き起こす医薬品について
  37.間質性肺炎を引き起こす薬剤(漢方薬を除く)
  38.漢方薬の副作用
  39.抗生物質による副作用のまとめ
  40.抗結核治療剤の副作用
  41.抗インフルエンザ薬の副作用
  42.ニューキノロン系抗菌薬の副作用
  43.水痘ヘルペスウイルス・帯状疱疹ウイルス治療剤の副作用
  44.薬剤性肝障害の鑑別
  45.ST合剤の使用をめぐる問題点
  46.抗真菌剤の副作用
  47.メトロニダゾールの副作用
  48.イベルメクチン(疥癬を治療するお薬)の副作用
  49.鎮咳去痰剤による注意すべき副作用
  50.総合感冒剤による副作用
  51.市販薬(一般用医薬品)の副作用
  52.健康食品・サプリメントによる副作用
  53.禁煙補助薬(チャンピックスⓇ、ニコチネルⓇ)の副作用
  54.ワクチンの副作用
  55.骨粗しょう症治療薬による副作用
  56.口腔内崩壊錠[Orally disintegrating tablet]による副作用

 

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