くすりの話 肺炎球菌ワクチン
執筆/松本 源悟(福岡・みさき病院薬剤科、薬剤師)
監修/野口 陽一(全日本民医連薬剤委員会、薬剤師)
読者のみなさんから寄せられた質問に
薬剤師がお答えします。
今回は肺炎球菌ワクチンについてです。
肺炎は細菌やウイルスなどが原因で起こる感染症ですが、日常でかかる「市中肺炎」のうち最も多いのが肺炎球菌によるものです。
細菌やウイルスなどの異物が体内に侵入すると、通常は免疫システムが働いて病原体を排除します。その際、免疫システムは侵入した病原体を記憶し、2度目以降は素早く対応できるようになります。
ところが、肺炎球菌は莢膜というゲル状の膜で覆われているため、免疫システムからの攻撃に強いという特徴があります。また肺炎球菌の莢膜には100種類以上の型が知られており、どれも髄液や血液に侵入して重い感染症を引き起こすことがあります。肺炎球菌ワクチンは、あらかじめ様々な莢膜の型の肺炎球菌に対する抵抗力をつくり、感染や重症化を防ぐために接種するものです。
肺炎球菌ワクチンの研究は1910年頃にはすでに始まっており、,14年に医学雑誌「Lancet」にその効果が報告されています。その後、ヒトに対して病原性の高い30種類の莢膜の型を目標にしたワクチンの開発が進み、1940年には6種類の型に対応した6価ワクチンが、さらに,77年に14価ワクチン、,83年に23価ワクチンが承認されました※。
定期接種の対象に
近年は、免疫システムが未熟な乳幼児に対しても効果を発揮する肺炎球菌ワクチンの開発が進んでいます。小児用の肺炎球菌ワクチンは、日本では2011年から公費助成が始まり、2013年から定期接種になりました。現在は13価ワクチンと15価ワクチンが使用されており、さらに20価ワクチンが加わる見通しです。
高齢者に対する国の定期接種は、2014年に始まりました。定期接種の対象者を拡大する経過措置は昨年度で終了し、今年度からは原則として、以下の方に助成の対象が絞られます。①65歳の方、②60~64歳で、心臓や腎臓、呼吸器の機能に障害があり、身の回りの日常生活を極度に制限される方、③60~64歳で、ヒト免疫不全ウイルスにより免疫の機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能な方。
新しいワクチンの研究も
このように長い歴史を持つ肺炎球菌ワクチンですが、莢膜の型を目標にしたワクチンには自ずと限界があります。ワクチンに含まれる型の肺炎が減る一方で、ワクチンに含まれない型の肺炎が少しずつ増えています。また、1つのワクチンに含むことができる型の数にも限りがあります。莢膜の型を目標としない新しいワクチンの研究も行われているところです。
肺炎球菌ワクチンについて、ご不明な点はかかりつけ医や薬剤師などにご相談ください。
※年はそれぞれの国際承認年
いつでも元気 2024.10 No.395