くすりの話 紅麹サプリメント事件(下)
執筆/藤竿 伊知郎(元・外苑企画商事、薬剤師)
監修/野口 陽一(全日本民医連薬剤委員会、薬剤師)
紅麹サプリメントによる健康被害のニュースに衝撃を受けた方も多いのではないでしょうか。
事件の背景にある機能性表示食品制度の問題について考えます。
紅麹サプリメント事件を受けて、政府は5月31日に対策をまとめました。健康被害報告と適正製造規範(GMP)※を事業者に義務づける内容です。この対策は実現するのに年単位の時間がかかるだけでなく、不足な点も目立ちます。
まず健康被害報告と言っても、有害事象報告が速やかに集約されるのかという疑問が残ります。今回の事件でも、昨年12月に倦怠感や尿の異常で受診する人が増え、1月には専門医が事業者(小林製薬)へ情報提供していました。事業者の公表が3月まで遅れたことで被害が拡大しましたが、そもそも利用者が受診して医師が似たような症状が多いことに気付くまでに数週間を要しています。
類似の制度として、医薬品の副作用についての報告制度があります。1980年に事業者の有害事象報告が義務化されましたが、報告件数は伸びませんでした。2003年に報告義務を医療機関及び医療関係者に広げたものの、医師から寄せられる日本国内の情報が少なすぎるという問題が続いています。
機能性表示食品のモデルとなったサプリメント制度がある米国では、規制当局(アメリカ食品医薬品局:FDA)が工夫を重ねています。サプリメント利用者に対し、有害事象に気付いたら「かかりつけの医療スタッフに知らせる」「電話かオンラインフォームで直接FDAに報告を提出する」「製品ラベルを見て製造業者に報告する」という3つの方法を訴えています。日本の消費者庁も厚労省と連携して、少なくとも米国並みの対応をすべきではないでしょうか。
規制緩和のかけ声で
適正製造規範(GMP)に基づく製造管理は重要な一歩です。ただし、管理対象物質と許容限度を明確にして、企業の勝手な解釈による不正検査を防ぐことが大切です。そのため、製造現場へ立ち入り調査する監視員の増員もしなければなりません。現状の医薬品のGMPは、人手不足のため立ち入り調査を規定の頻度で実施できず、後発品製造工場の違反を見落としていたように残念な状況です。
機能性表示食品制度は、規制緩和のかけ声のもとで2015年に創設されました。事業者が安全性や科学的根拠を示して届け出れば、無審査で〝効能〟を表示できます。
当初から安全性が危惧されていましたが、いのちに関わる最悪の事態が起きてしまいました。本来なら「届け出制」の是非や制度の廃止を含む徹底的な議論が求められます。
現時点ではサプリメント利用で体調不良を感じたときは、速やかに服用を中止して受診するという自衛が必要です。
※GMP(Good Manufacturing Practice)…原材料の受け入れから製品の出荷までの全工程において、
安全に一定の品質が保たれるようにするための基準。医薬品では以前から義務付けられている
いつでも元気 2024.8 No.393