くすりの話 紅麹サプリメント事件(上)
執筆/藤竿 伊知郎(元・外苑企画商事、薬剤師)
監修/野口 陽一(全日本民医連薬剤委員会、薬剤師)
紅麹サプリメントによる健康被害のニュースに
衝撃を受けた方も多いのではないでしょうか。
今回浮かび上がった機能性表示食品制度の問題を含め、
2回連載でお伝えします。
3月22日、小林製薬が紅麹(べにこうじ)サプリメントなど3種類5製品の自主回収を発表してから、健康食品に不安を感じる人が増えています。同社は紅麹の成分が「悪玉コレステロールを下げる」などと宣伝して、機能性表示食品として販売していました。
紅麹は米や麦にカビの仲間の紅麹菌を繁殖させたもので、限られた伝統食品で着色や風味付けに利用されてきました。味噌や醤油、日本酒など、日本の伝統的な発酵食品に使われる麹とはまったく種類が違います。
そもそも紅麹自体が有害なわけではなく、紅麹原料やその色素が少量入った食品の安全性には問題がありません。今回のケースでは、製品の製造過程で有害な物質が生成または混入した疑いが指摘されています。また、サプリメントのように濃縮した物質を継続的に長期間摂取する危険性を考慮しなければなりません。
制度のあり方を問う事件
紅麹サプリメントの製造過程でカビ毒が混入したと報道されましたが、原因解明にはまだ時間がかかるでしょう。1989年に米国で「トリプトファン」サプリメントが自己免疫性疾患を引き起こし、38人が亡くなった事件。当初は製造過程に混入した不純物によるものと思われていましたが、3年7カ月後にトリプトファンの過剰摂取と利用者の代謝能力差によることが分かりました。
今回もサプリメントの過剰摂取による副作用の疑いを否定できません。紅麹サプリメントが含有する「モナコリンK」は、日本未承認の脂質異常症(高脂血症)治療薬「ロバスタチン」の別名称。小林製薬は紅麹を投与した場合、モナコリンK単独投与より少ない用量でコレステロール低下作用があると主張していました。医薬品と同等の効力を持つ製品をサプリメント(食品)として販売していたことなど、機能性表示食品制度のあり方を問う事件です。
注意喚起も不十分
フランス食品環境労働衛生安全庁は2014年3月、紅麹を有効成分とするサプリメントを利用する前に、必ず医師に相談するよう注意喚起。特にコレステロール値を下げる「スタチン系」の薬剤を服用している人や「感受性の高い集団」(70歳以上の高齢者など)は、これらのサプリメントを利用してはならないとしていました。この情報は、内閣府食品安全委員会のホームページで公表されています。
小林製薬の紅麹サプリメントには、「肝機能検査で異常のある方は医師にご相談ください」との注意事項が書かれていました。しかし、リスクの高い人の利用を避ける努力が十分であったとは思えません。徹底検証が必要です。
いつでも元気 2024.7 No.392