くすりの話 「オメガ3脂肪酸」って?
執筆/藤竿 伊知郎(外苑企画商事・薬剤師)
監修/金田 早苗(全日本民医連薬剤委員会・薬剤師)
読者のみなさんから寄せられた質問に薬剤師がお答えします。
今回の質問は「脂肪酸」についてです。
植物油由来や「オメガ3脂肪酸」などと称するサプリメントが売れています。今回は脂肪を構成する「脂肪酸」について解説します。
脂肪酸は、その中に含む炭素の二重結合の数によって「飽和脂肪酸」「一価不飽和脂肪酸」「多価不飽和脂肪酸」に分けられます。多価不飽和脂肪酸はさらに、二重結合の位置によって「n-3系脂肪酸」と「n-6系脂肪酸」に分けられます(表)。この「n-3系」「n-6系」が「オメガ3」「オメガ6」とも呼ばれます。
かつて、動物性脂肪は動脈硬化や心臓病の原因となるので、コレステロール値を下げる植物油を摂るよう健康指導されていました。リノール酸を多く含む紅花(サフラワー)油が1970年代にブームとなり、各社が競ってサラダ油やマーガリンの製品宣伝を繰り広げました。50代以上の人は「リノール酸が健康にいい」と記憶にすり込まれています。
植物油は健康にいい?
20世紀後半、経済発展とともに油脂の消費量は増えました。1960年に1人1日12gだった植物油供給量は現在38g、3.2倍に増加しています。一方、ラード(豚脂)など動物性油脂は“リノール酸キャンペーン”もあって、70年代から消費量を減らし、現在では供給量ベースで全体の3%にとどまっています。
実は食品から摂る「n-6系脂肪酸/n-3系脂肪酸」の比率を下げることが、アレルギーやがんの予防に有効であることが明らかになってきました。アレルギー反応は、花粉などのアレルゲンの侵入により、体内で炎症メディエーターが放出されて広がります。リノール酸(n-6系脂肪酸)からつくられる炎症メディエーターは非常に強力で、アレルゲンが排除されたあとも持続的に作用します。それに対しα-リノレン酸などn-3系脂肪酸はその作用を抑える働きがあるのです。
日本脂質栄養学会は、早くからリノール酸削減と「n-6/n-3」バランスの重要性を指摘していました。
リノール酸の過剰摂取は、がんや心臓・血管系疾患の原因ともなることが知られています。脂肪の総量を抑えつつ、脂肪酸の種類を考えて偏らない利用が大切です。
和食中心にバランスよく
「オメガ3脂肪酸」と称するn-3系脂肪酸を、えごま油やアマニ油から摂ることを勧める健康食品の宣伝も見受けられます。また、炎症反応に中立のオレイン酸を多く含むオリーブ油などが押し出され、地中海食とともに評判を高めています。
脂質の役割についての研究はまだまだ発展途上です。値段の張る健康食品や特別な油を買うより、日頃からリノール酸の摂取を控え、魚料理や伝統的な和食中心の食事を心がけるほうがお得だと考えます。
いつでも元気 2023.7 No.380