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くすりの話

くすりの話

くすりの話 
薬が足りない?

執筆/石井 憲輔(東京・あきしま相互病院・薬剤師)
監修/高田 満雄(全日本民医連薬剤委員会・薬剤師)

 読者のみなさんから寄せられた薬の質問に薬剤師がお答えします。今回は薬の供給が不安定になっている問題についてです。

 最近、薬局や診療所などで薬をもらう際に、「お渡しする薬の名前が変わりました」「在庫がないため調剤に数日かかります」などと言われることが増えていませんか?
 製薬会社の不祥事も含めて最近マスコミでも報道されるようになったため、ご存じの方も多いかもしれませんが、国内で多くの薬の供給が不安定な状態に陥っています。かなり深刻な状況で、世界保健機関(WHO)が指定する「必須医薬品モデルリスト(EML)」に掲載されている医薬品の一部も供給が滞り始めています。EMLの医薬品は「各国の医療システムにおいて常に利用可能でなければならない」と定義されており、日本においてWHOが求める水準に達していない状況が生まれてしまっているのです。

医薬品混入事件をきっかけに

 今回の騒動のきっかけは、2020年12月に発覚した「小林化工」による医薬品混入事件でした。これは抗真菌薬に睡眠薬が混入したことで、2件の死亡事例を含む約240件の健康被害を出す大事件となりました。
 また同時期に、後発医薬品(ジェネリック)業界大手の「日医工」でも問題が発覚。品質試験で不適合となった錠剤を砕いて再び加工したり、出荷前の一部の試験を行わないなどの不正が明らかになりました。
 これらの事件をきっかけに、他の製薬メーカーでも製造方法や管理の不備が発覚し、次々と業務停止命令や製品の自主回収が行われました。その結果、市場の医薬品在庫は枯渇し、調剤薬局や医療機関が薬を入手しづらい状況が続いています。

背景に社会保障費抑制政策

 今回の事態には、単なる製薬会社の不祥事にとどまらない社会的な背景があります。
 医薬品は社会的に見ると、人の疾病の診断、治療もしくは予防に使用される側面と、製薬企業が経済活動を行うための「商品」としての側面の2つがあります。
 政府の社会保障費抑制政策による薬の公定価格(薬価)引き下げは、後発医薬品会社の利益を圧縮します。それが過当競争や行き過ぎたコストカットを招き、製造過程の検査・点検の省略や杜撰な品質管理につながりました。治療に必要不可欠な薬剤の供給維持のために公費を使用してこなかったことが、事態を引き起こした要因の1つです。
 一方で新薬は高い薬価が維持され、採算がとれない医薬品は製造を止めやすいような法改正もされています。それによって一部の製薬会社は巨大な利益をあげています。大企業の利益を優先し、国民のいのちと暮らしを軽視する日本の政治・経済構造が今回の医薬品の供給不足問題の根本にあります。
 また原薬を海外へ依存する危うさも、コロナ禍の輸入困難で浮き彫りになりました。企業の経済性の追求と目先の営利最優先の姿勢が、薬の安定供給を妨げているのです。

◎「いつでも元気」連載〔くすりの話〕一覧

いつでも元気 2022.4 No.365