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くすりの話

くすりの話

くすりの話 
機能性表示食品の罠

執筆/藤竿 伊知郎(外苑企画商事・薬剤師)
監修/高田 満雄(全日本民医連薬剤委員会・薬剤師)

 読者のみなさんから寄せられた薬の質問に、薬剤師がお答えします。
 今回は「機能性表示食品」についてです。

 新型コロナウイルス感染症で、その対策に「エビデンス(証拠)」があるのかが議論を呼んでいます。科学的証拠に基づいて行動することは、医療と同様に食品についても大切です。
 最近、科学的根拠があると届け出れば健康機能(効果)を表示できる「機能性表示食品」が店頭で目立ちます。市場調査会社によると2020年の市場規模は3000億円に達し、縮小する特定保健用食品(トクホ)の売上に迫ると予測されています。同年に承認・届出された新製品の数はトクホが11件、機能性表示食品は879件と大差がついており、市場拡大の勢いは増しています。
 消費者庁と厚生労働省が個別に審査するトクホと違い、効果について「報告がある」と企業が届け出るだけの機能性表示食品の場合、同じ物質でも標榜する機能を広げて売られています。
 例えばγ-アミノ酪酸(GABA)でみると、トクホでは「血圧が高めの方」に限定されていますが、機能性表示食品では「ストレスや疲労感を軽減」「睡眠の質を向上」にも効果があると宣伝しています。難消化性デキストリンについては、トクホでは「便通・おなかの調子改善」を中心にしていますが、機能性表示食品はむしろ「食後血糖値・中性脂肪の上昇抑制」の効果を宣伝しています。
 それ以外にも「肝臓の機能維持」「尿酸値を下げる」など医薬品と似た効果をうたう商品も出始めています。トクホでは表示できなかった「肌・皮膚への効果」「目や鼻の不快感軽減」「歩行能力の維持」「疲労感の軽減・改善」「認知機能・記憶の改善」「ストレス軽減」「免疫機能の維持」など、効果をうたう領域が広がっています。

◇公的規制が必要

 この30年間は根拠に基づく医療(EBM)が注目され、経験豊富な医師が「効果が高い」と推奨した治療法でも、再評価によって採用されなくなることが起こりました。例えば1998年には、脳循環代謝改善薬4成分14品目が「有効性なし」として承認を取り消されました。これらの薬は、脳梗塞・脳出血による後遺症(意欲・自発性の低下、抑うつ気分などの情緒障害)に対して10年以上使われ、年間1000億円以上を売り上げていました。
 「使って効いたという大御所の医者がいるんだから認めればいいじゃないか」という医学会の声もありましたが、二重目隠し試験でプラセボ(偽薬)と同等の効果しかなく、無効と判定されました。患者に対しては、投薬以外に救急処置・早期リハビリなどさまざまな治療が行われます。医学会の権威者も、病状の改善を医薬品の効果によるものと錯覚していたのです。
 トクホや機能性表示食品には、このような再評価の仕組みがありません。また、医療では標準治療の座をめぐってさまざまな仮説が競い合い進歩していきますが、健康食品にはその競争もありません。販売者が表示したい機能性の「根拠」は、医薬品と同じように国が審査をすることが必要です。

新薬の有効性を確かめるための比較試験。最も一般的な方法で、どんな薬を投与するのかを、患者だけでなく医療者にも知らせない

◎「いつでも元気」連載〔くすりの話〕一覧

いつでも元気 2021.3 No.352