くすりの話
コロナの感染予防と消毒
執筆/藤竿 伊知郎(外苑企画商事・薬剤師)
監修/高田 満雄(全日本民医連薬剤委員会・薬剤師)
読者のみなさんから寄せられた薬の質問に、薬剤師がお答えします。
今回は新型コロナ感染予防のために必要な消毒についてです。
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、飛沫を抑えるマスク着用は定着しましたが、鼻汁や唾液が手と物を介して「接触感染」しないよう引き続き注意が必要です。
むやみに顔を触らないことや、こまめな手洗いが勧められています。手洗いは石けんを使うと良いのですが、流水で丁寧に洗うだけでも十分ウイルス量を減らせます。洗い場がないときの手指の消毒は、アルコールをしっかりすり込みましょう。
ウイルスが付着した可能性がある共用部のドアノブやトイレの流水レバー、コンピュータのキーボードなどを消毒することも必要です。これらは貴重なアルコールや面倒な塩素系薬品を使わなくても、低刺激の台所用合成洗剤を活用して簡単に消毒できます。
国の感染症情報センターが2003年に出した「SARSに関する消毒(三訂版)」では、台所用合成洗剤に浸した雑巾でテーブルを2度拭き、食器は洗剤に5分以上浸したあと通常の洗浄を行うという方法を示しました。さらに経済産業省は今年5月、新型コロナウイルスへの効果を確認したNITE(独立行政法人 製品評価技術基盤機構)の研究を紹介し、「ご家庭にある洗剤を使って身近な物の消毒をしましょう」と発信しています。
消毒液の作り方は、500mlの水に対して5ml程度以上の台所用合成洗剤を加えるだけです。経産省は消毒した物が傷むことを恐れて仕上げ拭き(水拭き+乾拭き)を求めていますが、すでに希釈済みの台所用洗剤は「2度拭きいらず」をうたっています。完璧を求めず、長く実施できる省力化も大切ではないでしょうか。
危険な消毒薬は避けて
厚生労働省などから塩素系漂白剤を使う方法が紹介されていますが、お勧めできません。漂白剤の成分「次亜塩素酸ナトリウム」は、塩素を安定化するため強アルカリ性となっています。金属や繊維を腐食させ、吸い込むと呼吸器系の問題も引き起こす危険な物質です。消毒の効果は確実ですが、「こん棒でハエを叩くようなもの」と評価されています。
名前のよく似た「次亜塩素酸水」は、一部の業者が「安全性が高い」と宣伝し、部屋や人に対して噴霧する使い方を自治体へ売り込んでいたことが問題になっています。
NITEは、食品の殺菌料として使われる次亜塩素酸水を試験した結果、十分な濃度と量がなければコロナウイルスに対して有効でなかったと報告し、有効塩素濃度や使用原料を示さない製品も多いと注意を喚起しています。
プールの消毒に使う塩素でアトピー性皮膚炎が悪化することが知られています。塩素が体質的に合わない人への配慮が必要で、噴霧して使うことは避けてください。
強い消毒薬による健康被害や効果のない消毒液への依存を避けるよう、注意が求められます。
いつでも元気 2020.8 No.345