くすりの話 「隠れ多剤服用」の危険性(下)
執筆/藤竿 伊知郎(外苑企画商事・薬剤師)
監修/高田 満雄(全日本民医連薬剤委員会・薬剤師)
読者のみなさんから寄せられた薬の質問に、薬剤師がお答えします。
今回は前回に引き続き、サプリメントによる「隠れ多剤服用」の危険性について取り上げます。
「隠れ多剤服用」によって、医師から処方されている薬の効果が変わったり、健康被害が起きる可能性が増大します。
特に問題が大きいのは、心臓血管系の治療です。血栓をできにくくする薬の効果が“血液サラサラ”をうたうサプリメントの服用で影響されると、出血につながり危険です。とりわけ魚油(DHA、EPA)は医薬品として使われることもあり、効力が強いため注意してください。
また医師が処方する降圧剤は、患者さんの血圧の値のほか、職業や運動量、食事内容、家族歴などを総合評価して、受診ごとに種類と量を決定します。医師に告げずにサプリメントを使うと、その効果が不安定なため、薬の治療効果の判定に予測できない悪影響を及ぼします。
週刊誌には、薬とサプリメントの併用に注意を呼びかける情報がたくさん載っています。しかし週刊誌のセンセーショナルな情報には、惑わされないことです。最近も「ウコンが低血糖症につながる」という見出しの記事がありましたが、これらの情報はほとんど信じられません。さらにサプリメントは誇大宣伝も多く、薬への影響を気にする必要がない製品もたくさんあります。食事による血糖値上昇を抑えたり、脂肪吸収を減らすと称するサプリメントは、効果が弱いため薬との飲み合わせが問題となることは少ないと考えられます。
重い健康被害の事例も
身を守るためには、たまたま目にした「危険な組み合わせ」を避ければ良いという姿勢ではなく、サプリメントが持つ有害作用や副作用の起こり方を十分に理解することが大切です。
薬やサプリメント、健康食品による健康被害には、量が多いことによる中毒性と、体質によるアレルギー性の2種類あります。サプリメントには複数の成分が配合されていたり、原材料由来の成分が残っていることから、薬物性肝障害を引き起こす危険性があります。体内に入ってきた成分を肝臓が分解しきれなかったり、アレルギー反応を起こしてしまうからです。
2017年に東京都が報告した消費生活相談から1例紹介します。被害者は40代男性で、目のピント調節のため機能性表示食品を1日2粒ずつ摂取。服用開始半月後からオレンジ色の尿が出たため受診しました。その後、全身にかゆみを感じて別の医療機関から抗アレルギー薬の処方を受けていたのですが、全身のだるさとめまいが取れず検査したところ、急性肝炎で緊急入院となりました。
薬物による肝臓障害は発生頻度は少なく、原因となった薬物の服用を止めれば回復します。しかし発見が遅れると重篤な肝炎となり、命を落とすこともあります。
サプリメントの場合、副作用の報告が十分集約されないため、医師も診断に困ります。診察を受ける際、服用しているサプリメントを医師に伝えるとともに、副作用かと思ったらそのことを医師に告げていただくようお願いします。
いつでも元気 2020.4 No.342