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くすりの話

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くすりの話 
抗がん剤

執筆/菊池 健(北海道・勤医協中央病院・がん薬物療法認定薬剤師)
監修/高田 満雄(全日本民医連薬剤委員会・薬剤師)

 従来の抗がん剤は、がん細胞だけでなく正常な細胞にも作用する「殺細胞性抗がん剤」と呼ばれるものです。「殺細胞性抗がん剤」はさらに、細胞中のDNAを標的とするもの(アルキル化薬、白金化合物、代謝拮抗薬など)と、細胞内にある微小管に作用するもの(アルカロイド系抗がん剤)に分けられます。
 これらは正常な細胞にも作用してしまうため、脱毛や嘔吐、血液中の白血球や血小板が減少する副作用が見られます。使用経験が長い医薬品が多く、その薬価は数百円~1万円前後で、薬価が低く抑えられたジェネリック薬が多いのも特徴です。
 これに対して1990年代以降、がん細胞の増殖に関わる特定の分子に作用する「分子標的治療薬」が多く認可されるようになってきました。その内服薬の薬価は1錠当たり数千円と高額です。毎日服用するものや服用する期間が決まっているものがあり、1カ月あたりの負担額は高額になります。注射薬は治療のために有用な医薬品が多いのですが、1回あたり数万円から10万円を超える場合も少なくありません。
 さらに近年、「免疫チェックポイント阻害剤」と呼ばれる新薬が登場し、注目されています。本来、がん細胞と闘う免疫細胞が活性化することは望ましいことですが、免疫が高まりすぎると自らの健康な細胞も傷つけてしまいます。私たちの体は、“免疫チェックポイント”で免疫が高まりすぎないようにブレーキをかけて、バランスを維持しています。
 ところが、がん細胞はこのブレーキ機能を逆手にとり、巧みに免疫から逃れて生き延びようとします。免疫チェックポイント阻害剤は、免疫チェックポイントでかけられたブレーキ機能を外し、免疫が再びがん細胞を攻撃できるようにするのです。

高い日本の薬価

 本庶佑氏のノーベル医学・生理学賞受賞で脚光を浴びたオプジーボも「免疫チェックポイント阻害剤」の1つです。2014年9月、患者が比較的少ない皮膚がん限定で保険適用されましたが、その後、患者が数万人規模の肺がんに対象を拡大。薬価収載時に約73万円だった薬価が昨年2月に36万円に。さらに今年11月に17万円まで引き下げられます。高すぎる薬価を柔軟に再算定する仕組みができたことは評価できますが、「オプジーボの皮膚がん以外への適用は予測できたもので、そもそも薬価の設定が高すぎた」との指摘もあります。
 多くのがん治療薬が認可されていますが、諸外国と比較して、日本の薬価はしばしば高く設定されています。自己負担額が一定額を超える場合には「高額療養費制度」のような公的制度を活用できますが、それでも数万円の自己負担が毎月必要になります。高額な治療費のために、治療を躊躇する方もいます。
 せっかく良い治療薬があっても、治療のための経済的負担が大きすぎると生活そのものを脅かすことにつながります。国や製薬企業の都合だけでなく、患者負担も考慮された薬価の設定や公的補助の仕組みが必要です。

◎「いつでも元気」連載〔くすりの話〕一覧

いつでも元気 2018.11 No.325