【新連載】58.抗凝固薬の副作用(ワルファリン、DOAC)
ワルファリン(ワファリンなど)、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤カプセル(ティーエスワン配合カプセル)併用、カペシタビン(ゼローダなど)、オフロキサシン(タリビット錠など)併用、ダビガトラン(プラザキサカプセルなど)、リバーロキサバン(イグザレルト)など。
ワルファリンは血栓塞栓治療および予防薬として古くから使われてきました。現在でも心房細動に伴う脳塞栓症予防をはじめ、深部静脈血栓症による肺塞栓予防などに広く使用されています。ワルファリンの効果はビタミンK阻害によるものであり、生合成にビタミンKが関与する一部の血液凝固因子(Ⅱ、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹ)を抑制することで抗凝固作用を示します。また、効果指標であるINR(PT INR:プロトロンビン時間国際標準比)をモニタリングしながら投与量を調節することで安全かつ有効に使用することが可能です。
一方で作用機序にビタミンKが関与することから、ビタミンKを大量に含有する食品(納豆、クロレラ、青汁等)を摂取するとワルファリンの効果が減弱することが知られています。さらに効果に個人差が大きいことも注意が必要な特徴です。
近年、直接トロンビンまたは第Ⅹ因子を阻害することで効果を発揮する、DOAC(直接経口抗凝固剤=Direct Oral Anti Coagulants)と呼ばれる抗凝固薬が発売されました。作用機序にビタミンKが関与しないため食事の影響を受けにくいという特徴があります。またINRによるモニタリングが不要(不可能)である点もワルファリンと大きく異なります。血栓予防効果はワルファリンと同等または優れるとされていますが、腎機能や体重による用量調節が必要、INRモニタリングが出来ない、一部DOACを除いて中和剤が存在しないなど、ワルファリンには無い注意点があることに留意する必要があります。
過去5年間に報告された副作用はワルファリン:52例(65件)、DOAC:101例(133件)でした。このうち出血および出血に関連する副作用がワルファリン37件(出血傾向、皮下出血、INR上昇など)、DOAC17件(出血傾向、血尿、消化管出血など)と多く報告されています。
副作用モニター情報〈383〉 ワルファリンと併用薬によるINR上昇の管理
ワルファリン(商品名;ワーファリン)と他剤との併用によるINRの上昇については、すでに当モニターで2008年6月にフロリードゲルとの併用による症例を紹介しています。
今回、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤カプセル(商品名;ティーエスワン配合カプセル)との併用による報告が寄せられました。
症例)80代前半女性。ワルファリンの服用を約3年前から開始し、2mg/日でコントロールしていたが(INR 1.84)、膵臓癌との診断で、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤カプセルを40mg/日から開始。
1週間後に100mg/日へ増量し、その1週間後にINRが4.8に上昇。内出血などは見られなかったが、ワルファリンを中止し、12日後にはINRが1.38に改善。
相互作用の機序はテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤カプセルによって、ワルファリンの代謝酵素CYP2C9が阻害され、作用が増強したものです。同じフッ化ピリミジン系抗腫瘍剤であるカペシタビン(商品名;ゼローダ)は死亡例の報告もあり、併用について添付文書上で警告されています。
その他、当副作用モニターにはオフロキサシン(商品名;タリビット錠)併用によってINR3.4への上昇が示唆された80代男性の症例も報告されています。抗生物質との併用では、腸内細菌抑制作用によってビタミンK生産が低下し、ワルファリンの作用増強につながるとの説があります。
今回の症例では、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤カプセルを処方した時点で、継続処方されていたワルファリンについての情報が、内科から伝わっていませんでした。ワルファリンは多くの薬剤と相互作用を有することから注意が必要な薬剤です。
相互作用の原因となる薬剤が、他の医療機関から処方される場合も多いと思われます。調剤薬局でのお薬手帳による情報提供管理と併用薬チェックをしっかり行い、出血傾向などの注意喚起が重要です。
(民医連新聞 第1535号 2012年11月5日)
DOACはワルファリンに比べ個人差や食品相互作用が少なく、安定した効果が得られやすいことから出血および出血に関連する副作用は少ないと考えられます。しかし出血関連の副作用は無いわけでは無く、INRモニタリングできないことを考慮すると副作用発現にはより慎重な経過観察が必要です。
一方でDOACに特徴的な副作用として消化管症状に関連したものが49件(胃痛腹痛、胸焼け、腹部不快感、腹部膨満感、悪心・嘔吐、下痢、食道炎)と多く報告されています。これは直接トロンビン阻害薬(プラザキサ)に含有される酒石酸による影響と思われます。その他にも皮膚症状(掻痒感、湿疹)や、重篤な副作用(間質性肺炎・腎炎など)も報告されており、使用頻度が急激に増えていく中で、新たな副作用発現には注意が必要です。
副作用モニター情報〈369〉 ダビガトラン(プラザキサ)の副作用
ダビガトランは2011年3月から販売が開始された抗凝固剤です。何らかの原因で血管内に血栓ができて詰まりやすくなった患者に処方される薬です。静脈系の血栓を予防する効果が高く、非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制の適応となっています。それまでこの病気には、ワルファリンが広く使用されていました。しかし併用薬や食物によって効果が変動し、凝固能を頻回に検査しなければならないので、当初「凝固能の検査が不要」とされたダビガトランへの切り替えがすすみました。
しかし日本でダビガトランの使用が始まると、高齢や腎機能低下の患者さんを中心に出血性の重篤な副作用が多発し、死亡症例も報告され、安全性速報(ブルーレター)が発出されました。厚労省への副作用報告2011年度487件のうち凝固能低下や出血が原因と考えられる報告が256件あり、死亡は26人(うち出血性の死因14人)にのぼっています。(独法医薬品医療機器総合機構ホームページ2012/2/14現在)
症例)70代後半の男性。推定クレアチニンクリアランス57.6。心房細動による脳塞栓予防目的でプラザキサ(110)1回1Cap 1日2回で処方
投与14日目 PT-INR:1.92、aPTT:57.9
投与28日目 PT-INR:3.06、aPTT:53.7
→プラザキサ中止しバイアスピリンに変更
投与33日目 PT-INR:0.98、aPTT:26.6
この方は、高齢で腎機能が低下気味だったため常用量より少ない量で開始し、検査も定期的に行っていたので対応できましたが、凝固能の測定を定期的に行っていなければ、出血性の合併症が発現していた可能性もあります。
(民医連新聞 第1521号 2012年4月2日)
副作用モニター情報〈444〉 ダビガトラン投与とAPTT測定
ダビガトラン(商品名プラザキサカプセル)は、薬効の作用する仕組みがワルファリンと異なる抗凝固薬として2011年3月に発売されました。しかし、死亡例を受けて同年8月に安全性速報が出され、出血性副作用と腎機能低下について注意喚起されました。
過去1年間の出血性副作用報告は8例。症状は、皮下出血、鼻・口内出血、血尿、貧血、便潜血、APTT延長とクレアチニン上昇などで、重篤度はおおむねグレード2でした。発現時の投与量は全例220mg/日以下であり、ワルファリンへの変更や減薬で対応しました。
8例中、APTTを測定していたのは4例で、うち2例は40~50秒を超えたあたりで出血性症状があり中止(APTT正常値:25~36秒)。
1例は開始14日目でAPTT95.5秒でしたが注意しながら継続し、81日目で鼻出血があり中止。また1例は、80代後半男性、開始7カ月目でAPTT84.7秒、クレアチニン1.51mg/dlとなり、中止によって出血性症状を回避しています(PT-INR値不明)。
ダビガトランの作用はビタミンK阻害ではないので、ビタミンK依存性凝固因子の活性を示すPT-INRよりも、APTTが薬剤の濃度と対応することが分かっています。メーカーは、薬物血中濃度測定に基づく用量調節を検討していましたが、実用されませんでした。
報告例を見る限りAPTTと症状発現にばらつきが見られますが、添付文書には、臨床試験において薬剤の血中濃度が一番低い時のAPTTが80秒を超えると大出血が多かったと記載されています。腎機能とAPTT値をチェックすることが、過度な抗凝固作用を判断するのに大切です。また、私たちの事業所にくる前に通院していた医療機関でカプセルを開けて中身を取り出し与薬していた(脱カプセル)報告例がありました。本剤は、脱カプセルによって生物学的利用率が高くなり血中濃度が上昇します。注意が必要です。
(民医連新聞 第1603号 2015年9月7日)
副作用モニター情報〈479〉 血栓予防剤イグザレルトによる出血
リバーロキサバン(商品名:イグザレルト)は、「血液検査不要」「納豆を食べられる」という触れ込みで、ワルファリンの代替薬として注目された血液凝固阻害剤(Xa阻害剤)です。血液検査で効力推定が困難なことや、薬効を弱める拮抗剤が揃っていないなど、安全面では問題が指摘されています。本剤による出血関連の副作用報告の傾向を見ました。
当モニターに2012年の発売から2017年1月までに集積された症例は、30例39件でした。死亡症例はありませんでしたが、出血事例は血尿が6件、歯肉出血3件を含む口腔内出血5件、脳出血1件、血精子症1件、下血1件、皮下出血1件の合計15件でした。危険な出血性副作用の予兆ともいえる皮下出血は1件で、血尿と口腔内出血が目立ちました。
PMDA(医薬品医療機器総合機構)に集積された症例では、出血事例は様々な部位に及んでいました。中でも多いのが脳出血と消化管出血、皮下出血です。命に関わる脳出血が多いのは見逃せません。死亡症例を見ると、イグザレルトは発売から2015年末までに275例。一方、ワルファリンでは2010~2016年6月の間で123例でした。ワルファリンでも危険はありますが、イグザレルトよりは安全に管理できると解釈できます。
血液が凝固するしくみは複雑ですが、それは血液の性状を厳密に制御しなければならないからで、人為的にコントロールする際は細心の注意を払うべきです。
血液凝固の働きを調べるINR値は絶対的な指標にはなりませんが、本剤の承認時の評価資料にあるイグザレルト服用後の平均INR時間推移をみると、最大値は約3時間後に2.0~2.2で、治療域の1.7~2.6に入っているのは約1~7.5時間です。ばらつきを考えると、出血を起こしやすい危険な時間帯が存在し、かつ効力不足で再梗塞につながる恐れもあります。無理に「1日1回服用」にした投与設計の薬と言わざるを得ず、利便性は期待しない方がいいでしょう。
(民医連新聞 第1645号 2017年6月5日)
■副作用モニター情報履歴一覧
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**【薬の副作用から見える医療課題】**
全日本民医連では、加盟する約640の医療機関や354の保険薬局からのデータ提供等を背景に、医薬品の副作用モニターや新薬評価を行い、およそ40年前から「民医連新聞」紙上(毎月2回)などで内外に情報発信を行っております。
<【薬の副作用から見える医療課題】バックナンバ->
1.民医連の副作用モニターとは~患者に二度と同じ副作用を起こさないために~
2.アルツハイマー治療薬の注意すべき副作用
3.味覚異常・聴覚異常に注意すべき薬剤
4.睡眠剤の注意すべき副作用
5.抗けいれん薬の注意すべき副作用
6.非ステロイド鎮痛消炎剤の注意すべき副作用
7.疼痛管理に使用する薬剤の注意点
8.抗パーキンソン薬の副作用
9.抗精神薬などの注意すべき副作用
10.抗うつ薬の注意すべき副作用
11.コリン作動性薬剤(副交感神経興奮薬)の副作用
12.点眼剤の副作用
13.消化器系薬剤の様々な副作用
14.ジゴキシン(強心剤)の注意すべき副作用
15.抗不整脈薬の副作用
16.降圧剤の副作用の注意点
17.トリプタン系薬剤(片頭痛治療薬)の副作用について
18.脂質異常症治療薬の副作用について
19.喘息及び慢性閉塞性肺疾患治療薬の副作用
20.潰瘍性大腸炎治療薬の副作用
21.抗甲状腺ホルモン剤チアマゾールによる顆粒球減少症の重症例
22.過活動膀胱治療薬の副作用
23.産婦人科用剤の副作用
24.輸液の副作用
25.鉄剤の注意すべき副作用
26.ヘパリン起因性血小板減少症
27.高尿酸血症治療薬の注意すべき副作用
28.糖尿病用薬剤の副作用 その1
29.糖尿病用薬剤の副作用 その2
30.糖尿病用薬剤の副作用 その3
31.抗リウマチ薬「DMARDs」の副作用
32. ATP注の注意すべき副作用
33. 抗がん剤の副作用
34. アナフィラキシーと薬剤
35.重篤な皮膚症状を引き起こす薬剤
36.投注射部位の炎症等を引き起こす医薬品について
37.間質性肺炎を引き起こす薬剤(漢方薬を除く)
38.漢方薬の副作用
39.抗生物質による副作用のまとめ
40.抗結核治療剤の副作用
41.抗インフルエンザ薬の副作用
42.ニューキノロン系抗菌薬の副作用
43.水痘ヘルペスウイルス・帯状疱疹ウイルス治療剤の副作用
44.薬剤性肝障害の鑑別
45.ST合剤の使用をめぐる問題点
46.抗真菌剤の副作用
47.メトロニダゾールの副作用
48.イベルメクチン(疥癬を治療するお薬)の副作用
49.鎮咳去痰剤による注意すべき副作用
50.総合感冒剤による副作用
51.市販薬(一般用医薬品)の副作用
52.健康食品・サプリメントによる副作用
53.禁煙補助薬(チャンピックスⓇ、ニコチネルⓇ)の副作用
54.ワクチンの副作用
55.骨粗しょう症治療薬による副作用
56.口腔内崩壊錠[Orally disintegrating tablet]による副作用
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