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いつでも元気

いつでも元気

ケアマネの八面六臂な日々

いい湯だな

 日本人はお風呂が大好き。シャワーで済ませる方もいますが、やっぱり浴槽に体を沈め、ゆっくり体を温めたいという高齢者は多いですね。
 湯船に入ると血液循環が良くなり、リラックスできます。筋肉の緊張も緩和され、疲労が回復できるなど大きな効果があるそうです。
 介護保険のサービスに「訪問入浴」があります。訪問診療の医師が「これは日本ならではの良いサービスだから」と、在宅の利用者に勧めることも、しばしばあります。
 訪問入浴は、看護師1人と介護職2人の3人一組の体制で行います。浴槽を利用者のご自宅に搬入するので、一畳半分の空間が必要です。
 人工呼吸器を使用している方や、がんの末期の方にも訪問入浴をお願いしたことがありますが、3人のスタッフの役割分担と手際の良さに脱帽でした。
 Aさん(86歳、男性)はがんの末期で、ご自宅で最期を迎えたいと希望していました。入院中は状態が安定せずに入浴ができず、体を清拭するだけで、ご自宅に戻られました。
 Aさんには体の痒みがありました。私が訪問診療の医師に「訪問入浴を利用したい」と相談したところ、条件付きでOKを出してくれました。訪問入浴を担当する看護師さんに、Aさんの状態の厳しさと医師の指示をお伝えし、「これが最後のお風呂になるかもしれません」とお願いしました。
 看護師さんは当日、明るい声で「訪問入浴で~す」と自宅に来てくれました。体温や血圧を測り身体の状況を見たうえで、「動かなくていいですから、私たちにお任せくださいね」とゆっくり浴槽に入れて、全身を洗ってくれました。Aさんはとても気持ち良さそうでした。
 同席したご家族は、「へ~、こういうふうにお風呂に入れてくれるんですねえ!」と感動しきりでした。Aさんは5日後に亡くなりましたが、ご家族は「最期にお風呂に入ることができたのが忘れられない」と、今でも話題になります。
 公的な訪問入浴サービスは日本ならでは。ただ近年、訪問入浴の会社が、介護職員の不足で突然事業を廃止することが増えています。低い介護報酬の影響で、日本の文化ともいえる訪問入浴も存亡の危機にあると思います。


石田美恵
全日本民医連「ケアマネジメント委員会」委員長

いつでも元気 2025.4 No.401