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いつでも元気

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ケアマネの八面六臂な日々

うめ屋のどら焼き

「大福だったら、このお店でないとダメ」など、食べ物にこだわりがある方も少なくないと思います。
 ケアマネジャーが訪問すると、必ずお菓子を用意してくれる利用者の方がいます。「○○のこれは絶対お勧めだから食べて」と出されると、断るのが本当に辛い。あくまで原則ですが、ケアマネはご用意いただいたものを口にすることはできません。
 認知症の方が「うちのコーヒーはおいしいから」と、一生懸命勧めてくれたことがありました。「じゃあ、せっかくなので」とひと口いただいたら、だし汁で吹き出しそうになったこともありました。
 90歳のAさん(要介護度4、女性)は、歯科衛生士の娘さんと二人暮らし。糖尿病で長くインスリンの自己注射をしており、乳がんや甲状腺の腫瘍、心筋梗塞や心不全など病気の宝庫ですが口は達者です。
 塩分を制限しないとすぐに下肢がむくむので、娘さんが日に三度の食事を手作りして、コントロールしています。Aさんのこだわりは〝うめ屋のどら焼き〟。ただ糖尿病なので、なかなか食べさせてもらえません。
 日中はご自宅に一人でいるAさん。訪問すると「どら焼きが食べたいねぇ」という話になります。知人からいただいたどら焼きを持参し、「この味はどうですか」と食べてもらったことも(後ほど娘さんには、きちんと報告しておきました)。Aさんは「やっぱり、うめ屋がいい」という反応でした。
 ある日、心臓が苦しくなり救急車で大学病院へ搬送されました。娘さんは自宅で最期を看取るつもりだったので、家に帰したいと搬送先の病院に相談。しかし「帰宅道中で心臓が止まるかもしれない。帰せる状態ではない」と言われました。
 娘さんから、家に連れて帰れないかと電話がきました。私はAさんの訪問診療を担当する医師に相談、大学病院にかけあってもらい退院することができました。
 「あ〜病院で死ぬかと思ったよ」と、家に到着するなりつぶやいたAさん。2週間後、自宅で大勢の家族に見守られながら亡くなりました。
 お別れの挨拶をして帰り支度をする私に、娘さんが出してくれたのは〝うめ屋のどら焼き〟でした。


石田美恵 
全日本民医連「ケアマネジメント委員会」委員長

いつでも元気 2025.3 No.400