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いつでも元気

いつでも元気

青の森 緑の海

2020年3月、沖縄県国頭村

2020年3月、沖縄県国頭村

 世界遺産の沖縄島北部、やんばる地域の森は、イタジイやオキナワウラジロガシ、タブノキを中心とする常緑照葉樹林だ。
 落葉樹林と違って紅葉もなく、年中葉を茂らせて変化がない印象があるが、3〜4月には年に一度の見事な新緑を見せてくれる。緑にも無数の色があることに気付く、大好きな季節だ。
 沖縄の有名な季語〝うりずん〟はこの季節のことを表し、語源は「雨、降り染む」「潤い初め」など諸説ある。梅雨に包まれる少し前、南の森は一雨ごとに成長する感覚がある。
 古来、日本列島の植生は東日本のナラ林帯と、西日本の照葉樹林帯に大別された。約6000年前にも遡る縄文時代前期から、人々は森の恵みのもとに生きてきた。
 ナラ林帯ではクリ、クルミ、トチ、ナラなど、照葉樹林帯ではイタジイ、マテバシイ、ウラジロガなどの堅果が、それぞれの地域で食用になった。一般に照葉樹林帯よりナラ林帯で採れる堅果類の方が質量ともに豊かなため、採集以外の狩猟や漁労、農耕の発展具合も東西で違いがあったと推測される。
 歴史や風土の視点が入ることで、風景の見方は変わる。新緑の森を「きれいだなあ」と感じるだけでなく、森が生み出す無数のドングリにも想いを馳せて、お腹が空いた僕は少しだけ縄文人に近づいたのかもしれない。


【今泉真也/写真家】
1970年神奈川生まれ。中学生の時、顔見知りのホームレス男性が同世代の少年に殺害されたことから 「子どもにとっての自然の必要性」について考えるようになる。沖縄国際大学で沖縄戦聞き取り調査などを専攻後、沖縄と琉球弧から人と自然のいのちについて撮影を続ける。写真集に『神人の祝う森』『SEDI/ セヂ』など。

いつでも元気 2025.3 No.400