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いつでも元気

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まちのチカラ 和歌山県かつらぎ町 茜色の串柿 遺産と神秘のまち

文・写真 橋爪明日香(フォトライター)

串柿の里、四郷地区。急峻な山の斜面に集落が点在している

串柿の里、四郷地区。急峻な山の斜面に集落が点在している

和歌山県の北東部に位置するかつらぎ町。
温暖な気候で、年間を通して
さまざまな果物が町全体を彩ります。
世界文化遺産や日本遺産も有する
歴史ある町を訪ねました。

 大阪駅から環状線、南海高野線、JR和歌山線と乗り継ぎ約1時間半、かつらぎ町に到着しました。すぐそばには紀の川が東西に流れます。温暖な気候のため四季折々の果物が年間を通して収穫できます。今回果樹園を案内してくれた阪口剛啓さんの農園では、梅・桃・トマト・柿・みかんを栽培しています。
 町の北部には大阪府と和歌山県を区分する和泉山脈があります。その南斜面、標高約300mの山間地が四郷地区です。ここは450年前から縁起物の串柿づくりが伝承される串柿の里。細くて急峻な道沿いに茜色の串柿がずらりと並ぶ、美しい山里の風景が広がります。
 取材当日は、地元の中学生たちが校外学習で串柿農家を訪れていました。「和泉山脈から吹き下ろす乾燥した北風が、串柿づくりに適しているんです」と説明する西風佳知さんの指導で、柿の皮むき作業にいざ挑戦。中学生たちは悪戦苦闘しながらも作業を楽しんでいました。
 皮をむいた柿は竹串に10個ずつ刺し、10串を紐でまとめて1連と呼びます。干し場に吊るされて10日程で渋が抜けたら、棒押しと呼ばれるローラーで圧して形を平たく整えます。さらに天日干しとローラーを繰り返し、やがて飴色に変化した柿の表面に粉がふけば完成。串柿は三種の神器の一つである剣を表し、鏡餅と共にお正月に供えるお飾りとして、主に関西方面に出荷されます。
 串柿の里は狭い集落なので、訪れる際には徒歩やバイクがお勧め。生活の場なので、マナーを守って鑑賞しましょう。

伝統の味 柿の葉ずし

 かつらぎ町を訪れたら、ぜひ食べていただきたいのが柿の葉ずし。柿の葉ずしは江戸時代に生まれたといわれ、かつては秋祭りで振る舞われるご馳走でした。柿の葉には抗菌・抗酸化作用のあるタンニンが多く含まれるため、葉で包むことで長く保存できます。串柿づくりの忙しい時期に各家庭でも作られ、一週間ほど続けて食べていたそうです。
 伝統の味を伝える福本商店を訪ねました。地元のブランド米「天野米」を地下水で炊きあげ、大きな寿司桶で手際良くシャリを仕上げるのは、店主の福本宗治さん。機械は使わずに手押しでやさしく成形して鯖や鮭をのせ、一枚ずつ丁寧に手洗いされた柿の葉で包めば完成。防腐剤や添加物は一切使いません。
 柿の葉ずしは作りたてよりも、時間をおいて寝かせることで旨味が増すそうで、「3日ほどたって硬くなったら、ストーブの上で葉ごと焼くとおいしく食べられます」と福本さん。さわやかな柿の葉の香りがほどよく寿司に移り、手作りでしか生み出せない慈しみある食感と味わいです。お土産にも喜ばれる名品を、ぜひお試しください。

修験者の聖地

 和歌山〜大阪〜奈良の境にそびえる葛城の峰々。修験道の開祖と言われる役行者が修行を積んだこの地は、吉野・大峯と並ぶ「修験の二大聖地」と称されます。かつらぎ町を含む19市町村にまたがる伝承や文化財群が、葛城修験として2020年に日本遺産に認定されました。
 町内には堀越癪観音や葛城二十八宿第十三番経塚、葛城蔵王権現社など葛城修験の構成文化財が数多くあり、修験者が立ち寄った記録が残されています。里の人々が修験者に湯茶や食べ物を振る舞う「お接待文化」を、今も続ける地域もあります。厳しい山岳修行によって悟りを開く修験の道を訪ねてみれば、日本人が大切にしてきた自然に感謝する気持ちがわいてきます。

世界文化遺産を歩く

 町の歴史は高野山と深く関わり、2004年に世界文化遺産に登録された「紀伊山地の霊場と参詣道」を構成する、高野参詣道と丹生都比売神社があります。今回は高野参詣道三谷坂を歩きました。
 三谷坂は丹生酒殿神社を起点に丹生都比売神社へ参拝し、町石道を経て高野山を目指す古代からの参詣道です。JR妙寺駅から歩くと約7・6㎞、2時間半の道のりで景色の良い急勾配が続きます。みかん畑や柿畑の間を歩き、振り返ると紀の川を眼下に町の全景が広がります。
 森の中に入ると澄んだ空気に深呼吸。道中には笠石や頰切地蔵など、信仰に関わる石造物が残されています。笠松峠を越えると丹生都比売神社に到着。創建は1700年以上前とも言われ、神仏の融合文化を色濃く残す神秘的な雰囲気です。
 十分な山歩きの準備が必要ですが、荘厳な三谷坂を歩くことは貴重な体験。悟りが得られるかもしれませんよ。

 ほかにも、花園の御田舞やたい松押しなどの伝統行事が数多く残されているかつらぎ町。ぜひ、伝説と神秘あふれるこの地を訪ねてみてください。

■次回は愛知県東栄町です。

まちのデータ

人口
1万5327人(11月末現在)
おすすめの特産品
川上酒、あんぽ柿、くるみ餅、柿の葉ずし、ごま豆腐、柿酢、梅干し
アクセス
大阪駅から妙寺駅まで、電車を乗り継いで約1時間半
問い合わせ
かつらぎ町観光協会 
0736-22-0300(代)

いつでも元気 2025.2 No.399