くすりの話 健康に良い酢とは
執筆/藤竿 伊知郎(元・外苑企画商事、薬剤師)
監修/野口 陽一(全日本民医連薬剤委員会、薬剤師)
健康に良い酢とは
読者のみなさんから寄せられた質問に
薬剤師がお答えします。
今回は酢を使った健康食品についてです。
酢は、酸味をになう調味料として長い歴史を持ち、米酢など穀物酢が利用されてきました。リンゴ酢やワインビネガーなど、多彩な製品が利用されるようになっています。
酢の成分である酢酸は、疲労回復に役立ち、健康に良いと言われてきました。壺を使用して熟成させた黒酢が2000年以降評判になり、大さじ1杯の酢を飲む健康法を実践する人も出てきました。さらに黒酢をカプセルにした製品や、飲みやすい〝酢ドリンク〟も発売されました。
近年は健康機能を前面に出し、「血圧が高めの方」への特定保健用食品に続き、内臓脂肪を減らす機能や血圧を低下させる機能などを謳った機能性表示食品が発売されています。ただし、根拠となる研究の規模は小さく、ヒトに対する作用はまだ検証途中といえます。
健康酢の販売では、行きすぎた宣伝も目立ちます。消費者庁は2016年3月、「えがおの黒酢」がアミノ酸による痩身効果を誇張して宣伝したとして、景品表示法※違反で措置命令を出しました。販売会社は特別な運動や食事制限なしに飲むだけで痩せるかのように宣伝しましたが、合理的な根拠が確認できなかったためです。
黒酢カプセルの不思議
通信販売市場では、「他の酢よりもアミノ酸をたっぷり含む黒酢」「体に不可欠な9種類の必須アミノ酸を含有」などと謳う黒酢カプセルが競い合っています。2006年7月、公正取引委員会は健康食品「熟成やずやの香醋」の販売会社に対し、景品表示法違反として排除命令を出しました。同社は「香醋には日本の一般的な米酢の約10倍ものアミノ酸が含まれています。この香醋を約20倍に濃縮してカプセルにしています」と宣伝していながら、製品に含有するアミノ酸は表示量の5分の1程度でした。同社は「20倍に濃縮された成分もある。アミノ酸は確かに4〜5倍なので、顧客に誤解を与えないよう表示を修正した」と釈明しました。
現在の商品には「カプセルにする際に熱を加えて粉末にしております。すべての成分がそのまま残るわけではございません」と注記があります。酢の主成分である酢酸は、濃縮工程でどれだけ残っているのか疑問です。
そもそも、食酢の中にあるアミノ酸濃度は多くても1%ほど、大さじ1杯で0.15gにしかなりません。現在販売されているカプセル製品の成分表示を見ると、1日量で0.3~0.5gのたんぱく質を含んでいます。アミノ酸は、食品中ではたんぱく質として扱われます。日本の成人は1日70gほどのたんぱく質をとっています。アミノ酸を補充するのなら、動物性食品や大豆などから良質のたんぱく質をとるべきでしょう。
酢は、肉や魚介類の臭みをカバーし、食欲を増す貴重な調味料です。賢く付き合っていきたいものですね。
※ 景品表示法…正式名は「不当景品類及び不当表示防止法」
いつでも元気 2025.2 No.399