青の森 緑の海

鹿児島県徳之島西部の天城町にある線刻画
2024年9月(柵の外から撮影)
かつて島々の交通は海上にあった。飛行機のない時代、船が人も荷物も文化も運んでいた。その風景を留める岩が鹿児島県の徳之島にある。
アマミイボイモリの生息地として知られる戸森の湿地に、線刻画の彫られた岩がある。線刻画はペトログリフとも呼ばれ、石に文字や絵を刻むことで何かしらを表現したもの。「何かしら」と書いたのは、明確な目的があるものだけでなく、戯れで描いたものも含まれるから。
写真は戸森の第1線刻画。たくさんの事物が描き込まれている。船は帆船で、木綿の帆と思われることから江戸時代ごろの作品と推定されている。弓矢が48本もあり、種類もさまざまだ。帆船が海を走っていた時代の風景が思い浮かぶ。
徳之島では各地に線刻画が遺されており、場所によっては地域のノロ(神職)が石の前で祈願をしていたとの伝承もあるという。単なる記録の絵ではないのかもしれない。
世界最古の線刻画のひとつは、旧石器時代(約1万2000年前)に描かれたとされるウクライナのもの。文献や伝承ではうかがい知れないの風習や文化が刻まれている線刻画。人命とともに、戦火で失われないことを祈るばかりだ。
【今泉真也/写真家】
1970年神奈川生まれ。中学生の時、顔見知りのホームレス男性が同世代の少年に殺害されたことから 「子どもにとっての自然の必要性」について考えるようになる。沖縄国際大学で沖縄戦聞き取り調査などを専攻後、沖縄と琉球弧から人と自然のいのちについて撮影を続ける。写真集に『神人の祝う森』『SEDI/ セヂ』など。
いつでも元気 2025.2 No.399