けんこう教室 鍼灸治療と養生(下)
鍼や灸などを使う東洋医学の診察方法や治療について、
川端鍼灸治療院(京都民医連)の岡貞充さんに
2回連載で教えていただきます
前回(9月号)は私が東洋医学を志したきっかけや、東洋医学の診察方法などについてお伝えしました。今回は具体的な症状に対する考え方や治療法についてお話しします。
当院に来られる患者さんの症状は、肩こりや腰痛をはじめ、ぜんそくや胃腸の不調、アトピー性皮膚炎や不眠症、自律神経失調症など多岐にわたります。東洋医学では、これらの症状に応じて鍼や灸、あん摩や指圧、漢方薬などを処方します。
陰陽五行説
治療を始める前提として、「陰陽五行説」という考え方があります。これは「陰陽論」と「五行説」からなります。
陰陽論では、自然界のすべては対立する2つの要素によって成り立ち、相互に影響しあいながら絶えず変化すると捉えます。五行説では「木・火・土・金・水」の5要素を柱にして、それぞれの性質が補い合い、打ち消し合うことでバランスを保っていると考えます(資料1)。
これらを身体の機能に応用したのが「五臓」です(資料2)。身体を「肝・心・脾・肺・腎」の構成要素に分類して理解するもので、肝は末梢循環や代謝、心は循環器系、脾は消化器系、肺は呼吸器系、腎は生殖や腎泌尿器系に関連します。また「五臓」は共同して脳の機能を担い、肝は情動、心は理性、脾は意欲、肺は配慮、腎は根気をつかさどります。
五臓の機能がそれぞれ助け合い、抑制し合って心身のバランスを保ちます。五臓以外にもさまざまなものが5要素に分類され、病気の症状や対処法を大まかにつかむのに用いられます(資料3)。
女性の更年期障害の治療
病気やさまざまな症状は、五臓の身体機能のバランスが崩れて起こるものと捉えられます。治療の目標はこのバランスをいかに整えるかということになります。
女性の更年期障害を例に挙げましょう。女性の更年期とは一般的に閉経前後の5年間、合計して約10年間を指します。体内のホルモンバランスの変化に心理的・社会的な要因も加わって、さまざまな症状があらわれます。
五臓の観点からは、閉経は加齢による「腎」の衰えと捉えられます。腎が弱るとその隣の「肝」にも影響して、めまいや頭痛、イライラなどの症状につながると考えられます。また腎が「心」を抑制する力が弱まることで、動悸やほてり、不眠などの症状にもつながります。
当院では、前回お話しした「四診」(望診・聞診・問診・切診)を丁寧に行い、患者さんの心身の状態を確認します。症状を抑えるツボや腎の衰えを補うツボなどを刺激します。
資料4では、女性の更年期障害に効くツボを紹介しています。ゆっくり深く呼吸しながら、「イタ気持ちいい」くらいの強さで5〜10秒間ほど押してみてください。
食養生の知恵
2000年以上前の中国の書物『黄帝内経素問』に、「聖人は未病を治す」とあります。未病とは病気になる前の段階のことで、予防の重要性が既に認識されていたことが分かります。
また、江戸時代を生きた貝原益軒の『養生訓』には、心身を健康に保つための教訓が綴られています。「食べ過ぎず、毎日自分に合った適度な運動をする」「怒りや心配事を減らして、心を穏やかに保つ」のほか、「いろいろな味のものをバランスよく食べる」などと書かれていました。
病気を予防し、心身ともに健康に暮らすためには、食事が大変重要です。最後に、陰陽五行説を応用した食事(食養生)についてお伝えしたいと思います。
資料5をご覧ください。五臓のそれぞれに、食物の五色と五味が対応しています。
先ほど女性の更年期障害を例に挙げましたが、腎の衰えを補う食材として黒豆や黒ごま、のりなどがお勧めです。
これはほんの一例に過ぎません。実際には四診で患者さんの状態を把握して、それぞれの症状に合った食事などをアドバイスさせていただきます。
いずれにしても、季節に合った旬のものをまるごと食べるのが食養生の基本です。一口ごとに十分に噛んで、楽しい雰囲気で感謝していただきましょう。それぞれの体調に合わせて、全体をバランスよく(腹七〜八分目に)摂取することが重要です。
健康講座「鍼灸治療と養生」
講師:岡 貞充(京都・川端鍼灸治療院)
日時:12月1日(日)午後2時〜4時
午後1時半〜 受付開始
2時〜3時半 講演
3時半〜4時 相談会
場所:京都教育文化センター203号室
(京都市左京区聖護院川原町4-13)
定員:40人(予約制)
参加費:無料
お申し込み:川端鍼灸治療院
Tel.075-762-2101
いつでも元気 2024.10 No.395