ケアマネの八面六臂な日々
〝ヤングケアラー〟という言葉
2~3年前から、「ヤングケアラー」という言葉をよく聞くようになりました。大人に代わって家族の介護や家事を日常的に担い、勉強する時間や自由な時間を奪われた子どもたちのことです。
ヤングケアラーを生んだ一つの要因に、脆弱な社会保障制度があります。介護保険制度では要介護者に同居家族がいる場合、訪問介護の「生活援助」を認めていません。
ある自治体職員はケアマネジャーに対して、生活援助を認めない理由としてこんな説明をしました。「皆さんだって自宅に帰れば、自分たちの夕飯を作るでしょう。その際に家族の分も作れるはずです」。
要介護者の食事は特別に作る必要があったり、食事の際にケアをする必要があることなど考慮していません。
一方、学識経験者は「定期的に利用者のお宅を訪問するケアマネは、ヤングケアラーを見つけられるはず」と簡単に口にします。しかし、その背景はとても複雑です。
要介護3の父親(85歳)と同居するAさん(49歳)は、夫がアルコール依存症で入院中。母親は既に亡くなっており、4人の子どもを育てながら父親の介護をしなければなりません。
昼間は保育士として働き、夜は夫が経営していたお店をやりくりするAさん。子育てと介護のダブルケアに、ダブルワークという状況です。
Aさん宅に通う訪問看護や通所介護の担当者は、介護保険のサービスを増やさなければAさんが倒れてしまうと、ケアマネに連絡をくれます。しかしサービスの追加を提案しても、「これ以上の出費は抑えたい。家族の食事づくりは長女(10歳)に頼みます」とAさん。
経済的に困窮する世帯は、介護サービスの利用料を抑えるため家族内で介護を何とかしようとします。このままでは、Aさんの長女がヤングケアラーになってしまうかもしれません。
ヤングケアラーと、子どものお手伝いの境目もよく分かりません。言葉に振り回されず、起きている事象を見極めることが大切です。複雑な背景を持つ家族を支援するには、ケアチーム全員で多様な視点から考えていくことが必要だと思います。
石田美恵
東京民医連のケアサポート千住(足立区)所長
全日本民医連「ケアマネジメント委員会」委員長
いつでも元気 2024.10 No.395
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