詩でつづる平和と人権
聞き手・武田 力(編集部) 写真・五味 明憲
NPO法人日本障害者協議会(JD)代表の藤井克徳さんが詩集『心の中から希望が切り離されないように』を発行しました。詩集にこめた思いを聞きました。
詩集の冒頭に掲げた「連帯と祈り ウクライナの障害のある同胞へ」という詩は、2022年3月に書いたものです。同年2月にロシア軍がウクライナへ侵攻。逃げ惑う人々の様子とともに、「障害者が施設に置き去り」というニュースも流れていました。
居ても立ってもいられず、ウクライナの仲間に手紙を書こうと思い立ちました。ふと、「翻訳して伝える時に、詩のほうが〝誤差〟が少ない」と誰かに言われたのを思い出したのです。
「戦争は 障害者を邪魔ものにする」で始まる詩に、一日も早い停戦と和平への祈りを込めました。戦争という非常時には、真っ先に弱い者へ犠牲が集中します。障害のある仲間に向けて、「心の中から希望が切り離されないように/とにかく生き延びてほしい」とのメッセージをつづりました。
詩を現地の言語に翻訳してもらい、ヨーロッパ障害フォーラムという団体に託しました。2週間ほど経って、ウクライナ障害者国民会議から「泣きながら読んだ」という返事が届きました。
どれだけ力になったかは分かりませんが、気持ちが通じたのは嬉しいことでした。その後、きょうされん ※1 の仲間たちと一緒にウクライナの障害者団体を支援する募金活動に取り組んでいます。
※1 きょうされん…障害のある人の働く場づくりや生活の場づくりなど、障害者の権利保障の運動に取り組む
ガス室で聴いたことば
「私で最後にして」という詩は、ナチス・ドイツによる障害者虐殺「T4作戦 ※2 」をテーマにしたものです。ドイツ中西部のハダマーにかつての殺害施設が保存されており、私も訪れたことがあります。
地下のガス室へ続く階段を下りていくと、途中から外の喧騒が全く聞こえなくなりました。普段から音には敏感なのですが、無音の世界に浸りながら初めて「音がないのも音のうちだな」と感じたのを覚えています。
ガス室は7畳半くらいのスペースで、一度に50人ほどが詰め込まれて殺害されたそうです。しばらくその場でたたずんでいると、「こんな死に方は私で最後にして」という女の子の声が聞こえたような気がしました。
ナチス・ドイツが第二次世界大戦の口火を切ったのと同じ日(1939年9月1日)に、T4作戦の命令書を出したのは象徴的です。それは戦争遂行の足手まといになる「生産性のない者」を抹殺する企てでした。
「生産性のない者」を排除する思想は、折に触れて私たちの社会にも頭をもたげてきます。「私で最後にして」というメッセージを深く真剣に受け止める必要性を感じます。
※2 T4作戦…ナチス・ドイツのもとで行われた障害者の大量虐殺政策。犠牲者は20万人以上に及んだ
私の原点
詩集には戦争のほか、障害や人権、ことばやメディアなどをテーマにした作品が入っています。子ども時代のエピソードもあり、私が関わってきた運動や人生観を反映した詩もあります。
私が都立小平養護学校(現在の都立小平特別支援学校)に就職した1970年代初めは、障害の重い子どもたちは義務教育から排除されていました。やがて入学決定の可否を各学校の判断に委ねるようになり、希望者が定員を超えた場合は職員会議の多数決に付されました。
若手教員だった私は、職員会議で「権利を多数決で決めるのはおかしい」と必死に主張しました。口も足も震えながらの青臭い発言に、数人が「そうだ」と言ってくれたのを覚えています。その後、学校が定員を超えて子どもを受け入れるようになり、74年には革新都政のもとで〝全員就学〟が実現。子どもたちのわずかな変化に驚いたり喜んだりしながら、実践の中でいのちの尊厳を教えられてきました。
気づく力
思いを言葉にすること
言葉に出すことで共感が近づいてくる
悲惨さや理不尽さを語るのも連帯の証
つぶやきは行動の源泉
~「無力じゃない」より~
「無力じゃない」という詩の中に、「『あきらめない』には裏打ちが必要/それは気づく力」という一節があります。
虚偽やごまかしも多い世の中で、事実の背景にある真実を見極める力は一朝一夕にはできません。気づく力を研ぎ澄ますためには、①学ぼうとする姿勢に加えて、②人とつながる力、③伝える力、さらに④行動する力の4つが大切だと思います。
4つの力を磨くのに遅すぎることはありません。それは気づく力の底辺を広げ、私たちの心から希望が切り離されるのを防いでくれます。
私の詩を入り口に、周りの仲間や同僚、患者さんなどと語らう素材にしていただけたら望外の喜びです。
心の中から希望が
切り離されないように
藤井克徳詩集
出版社:合同出版
定価:1,540円(税込)
いつでも元気 2024.8 No.393