まちのチカラ 熊本県山都町 阿蘇山麓の星が降るまち
文・写真 橋爪明日香(フォトライター)
九州のほぼ中央に位置する山都町。
国宝の通潤橋や伝統息づく芸能、
穴場のカフェに満天の星空が見どころです。
阿蘇山麓の豊かな自然に囲まれた、
美しい町を訪ねました。
阿蘇くまもと空港から南東に車でおよそ40分、「九州のへそ」にあたる山都町に到着しました。山の都の名の通り、連なる山々の景観が見事な町です。世界最大級の阿蘇カルデラを形成する南外輪山に位置し、南側は九州脊梁山地に接しています。
まず向かったのは、町役場からほど近い通潤橋。日本最大級の石造りアーチ水路橋です。江戸時代、水不足に困っていたこの地に農業用水を送るため、惣庄屋(現在の町長にあたる)の布田保之助が1854年に建設しました。「肥後の石工」の高い技術を用いて建設された石橋は長さ約78m、高さ約21・3mを誇り、昨年9月に土木構造物として全国初の国宝に指定されました。
通水管に溜まった土砂を取り除くため、定期的に行われる放水を目当てに、多くの観光客が訪れる通潤橋(放水のスケジュールはホームページ参照)。保之助の熱意と石工たちの技術力に思いを馳せながら、暑さを吹き飛ばす豪快な放水を体感してください。
進化する伝統芸能
町の中央にある道の駅「清和文楽邑」には、九州で唯一の人形浄瑠璃専用劇場「清和文楽館」が併設され、年間約200回の公演が行われています。
郷土芸能として受け継がれる清和文楽は、江戸時代末期の1850年ごろ、清和村(現山都町)を訪れた人形芝居の一座から浄瑠璃好きな村人が人形を譲り受け、操り方を習ったのがはじまり。1979年には清和文楽人形芝居が熊本県の重要無形文化財に指定されました。その後は〝文楽の里〟をキャッチフレーズに村おこしに活用されています。
今回訪ねたのは大川阿蘇神社で行われた春の豊作祈願公演。一人何役もこなす太夫の声色、物語を盛り上げる三味線の音色、そして人形の大きな動きに魅了されました。
「伝統も大事ですが、新しい取り組みにも挑戦して若い人たちにつないでいきたい」と熱い想いを語るのは、清和文楽の里協会理事長の髙橋稔朗さん。近年では人気漫画「ONE PIECE」とコラボレーションした口語調の舞台を行うなど、若者や外国人など新しいファン層を開拓しています。伝統芸能の新たな挑戦におおいに注目したいですね。
絶景の隠れ家カフェ
町中心部から南へ車で30分、生い茂る木立に囲まれたカフェゆずの木 ねむの木 みずたまの木に到着しました。
「初めてこの場所から阿蘇の景色を眺めた時は、あまりの絶景に動けませんでした。ここでコーヒーを飲んで、ゆっくりできたら最高だろうなと思いました」と語るのは店主の小坂寛さん。この地に魅了され、東京から家族で移住しました。
約2年かけて店主自ら手作りしたガラス張りのカフェは、2023年度の「くまもと景観賞(奨励賞)」を受賞。自然環境や景観に配慮するために完全予約制です。野鳥のさえずりをBGMに心地よい風を感じながら、ゆったりとした時間を味わえます。
人気メニューの「山の都のピクニックプレート」は、幻の豚として有名な梅山豚のソーセージ、地元養鶏場の卵を使ったスペイン風オムレツ、彩り美しい地場野菜などが盛り込まれた贅沢な一皿。森の中のピクニック気分でおいしくいただきました。
満天の星空を見上げて
町は美しい星空を守ろうと、2020年に「山都町星空環境保全条例」を制定。天体観測を妨げる「光害」を防ぐために、屋外照明器具の工夫や教育・広報活動などの取り組みを推進しています。
天体観測におすすめしたいのが清和高原天文台。阿蘇外輪山の裾野に広がる、標高700mの井無田高原(通称・清和高原)に建っています。天文台敷地内には宿泊施設やレストランもあり、泊まりがけでじっくりと星空を楽しむことが可能です。
今回、晴天時に行われる天体観測会(要予約)に参加することができました。観測室の「スライディングルーフ型」の移動式屋根が開くと、360度見渡す限りの星空が広がります。
「星空案内人」(星のソムリエとも呼ばれる民間資格)の折尾拓美さんが、口径50㎝のニュートン式反射望遠鏡を月やシリウスなどに向けると、望遠鏡を覗いた子どもたちは「宇宙に行っているみたい!」と声をあげます。星が放つ輝きに深く感動し、時間の流れを忘れてしまいました。ぜひ一度、宇宙の神秘に触れてみてください。
■次回は東京都八丈島です。
まちのデータ
人口
1万3117人(3月31日現在)
おすすめの特産品
ブルーベリー、米、矢部茶
アクセス
阿蘇くまもと空港から山都町役場まで車で約40分
JR熊本駅から車で約60分
問い合わせ先
山都町観光協会 0967-72-9450
いつでも元気 2024.7 No.392
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