水害列島
内水氾濫にも警戒を
文 新井健治(編集部)
全国各地で頻発する水害。西日本が目立ちますが、昨年7月には東北地方も豪雨に襲われました。秋田民医連の中通総合病院(秋田市)は、院内の冠水で入院患者23人を自衛隊や災害派遣医療チーム(DMAT)に搬送してもらう事態に。河川の氾濫に加え、最近は都市部でも頻繁に起きる「内水氾濫」の影響を受けました。
昨年7月14日に降り始めた雨の影響で、15日午後4時頃に中通総合病院の周辺が冠水。想定を上回る勢いで地下に水が流れ込み、16日未明には病棟の一部が停電した。エアコンが使用できなくなり、自衛隊とDMATの協力で入院患者23人を秋田市内外の病院へ搬送した。
「まさか、この地域で大規模な水害が起きるとは」と振り返るのは、同院事務次長で防災担当(当時)の近江有人さん。入院、外来とも診療制限をして復旧作業にあたり、8月8日には全面復旧した。一番大きなダメージは地下1階の給食厨房で、復旧までに3週間以上かかり、その間の患者給食は非常食と宅配弁当で代用した。
被害を抑えた止水板
過去に大雨で病院周辺が多少冠水することはあったものの、院内が冠水するのは初めて。近くの太平川と旭川が氾濫したうえ、市内の排水施設の容量を超えた雨が降ったため、下水道や水路等から雨水があふれる内水氾濫で被害が拡大した。
浸水を防ぐうえで役立ったのが、地下の資材搬入口に続くスロープに設置したプラスチック製の「止水板」。これで一定程度水をせき止め、被害を抑えることができた。「地下に電源設備があるため、念のため3年前に購入した。使用は想定外だったが、助かりました」と近江さん。
止水板は土嚢より軽く、高さや強度もある。重ねておけば置き場所に困らないため、最近は事業所以外にマンションなどでも水害対策として活用されている。「止水板がなければ電源喪失が病院全体に及び、病院機能が停止したかもしれない。復旧までに相当の日数を要し、その間は全面診療停止という事態もありえました」と語る。
事業所周辺の調査を
地球温暖化で日本周辺の海面水温が上昇、主に7月から10月にかけ水蒸気を大量に含んだ雲が接近する。全国どこでも大型台風や豪雨による水害が起きる可能性が高くなっている。
河川の氾濫に加え警戒したいのが、内水氾濫だ。従来の想定を超える雨量により、たとえ河川から離れた場所でも内水氾濫が起きる。氾濫した太平川と旭川は病院から500m離れており、河川の氾濫と内水氾濫の複合的な災害により院内まで冠水した。
河川の氾濫を想定した災害対策を立てている事業所はあるが、今後は内水氾濫にも備えたい。過去の降雨量で計算した排水機能になっている地域もあり、改めて事業所周辺の状況を調べる必要がある。
〝まさか〟に備える
中通総合病院は火災や地震の避難訓練は恒常的に実施していた。止水板の購入後は設置訓練を続けていたものの、水害対策の避難訓練は想定外のため行っていなかった。
水害を受け止水板を新たに購入するとともに、敷地内の雨水浸透を防ぐ補修工事を実施した。職員への水害発生時の情報伝達が不十分だったため、ホームページに情報伝達ページを作成。メールによる連絡網を整備して情報伝達訓練も始めた。
近江さんは「『そんなことが起こるわけがない』という考えは甘く、災害想定は最悪の状況を考慮することが重要だと痛感しました。全国の皆さんには、災害時の行動指針を緻密に考えた災害対策マニュアルの作成を強くお勧めします」と話す。
昨年の水害時に止水板は9枚あったが、枚数が足りずに隙間から漏水した。現在は63枚を準備し、次の豪雨に備えている。近江さんは「まさかここまで水は来ないだろう、という〝まさか〟の部分で準備することが大切です」と呼びかけた。
中通総合病院の水害被害
■ 西棟地下1階
・電源設備 病棟が一部停電に
・給食厨房 復旧は3週間後
・資材課 事前にパソコン関連機器や医療材料を運び出した
ため被害は最小限に
■ 西棟地下2階
・職員ロッカー室 740人分のロッカーを全て交換
・病歴物保管室 紙カルテとレントゲンフィルムを全て廃棄
・リネン庫 保管していた寝具類を全て廃棄
※地下2階は現在も工事中で復旧は8月の見込み
※改修工事など復旧費用は全体で約1億7000万円
いつでも元気 2024.7 No.392