ケアマネの八面六臂な日々
認定調査の“女神”
介護認定の調査は介護度を測るための物差し。自治体の職員やケアマネジャーが利用者のお宅を訪問し、74項目もの調査をします。
調査は利用者ができること、介助が必要なこと、介護者の手間となっていることを調査項目にそって確認しますが、この項目に疑問を感じています。
例えば、両手が肩の高さまであがりさえすれば「麻痺なし」になります。しかし、日常生活で両手が肩から上にあがらなければ困ることはたくさんあります。洗濯物を干したり、キッチンの上の棚から食器を取る動作ができなくても、〝麻痺なし〟になってしまうのです。
また、両足のつま先を上げ下げするように足首を動かそうとしても、動かせない方がいます。こういう方は歩き方がペンギンのようになり、つま先が上がらないのでつまずいて転倒してしまいます。
この足首の動きは調査項目にはないので、「関節の拘縮」という項目で調査員が意識して確認しないと漏れてしまいます。全国一律の物差しのはずが、自治体によってローカルルールがあり、評価が変わることも起きています。
私は介護認定の調査を受ける場面に〝魔物〟がいたり、〝女神〟が降りてくることがあると感じています。70代のAさんは元公務員で定年まで勤めあげたことが自慢です。しかし、もの忘れの進行や尿失禁が出てきたので、要介護1の区分を変更してもらおうと「区分変更申請」をしました。
Aさんの部屋のたんすの上には、妹さんが買ってきたパンツ型のオムツが山積みに。毎朝起きると「今日は何月?」と家族に聞かないと分からない状況でした。前もって「調査員から聞かれたことに、無理して答えなくていいですからね」と念を押しておきました。
ところが調査当日、あんなに山積みになっていたオムツはどこかに隠され、「今日は何月何日?」との質問にも素早く回答。「女神が降りてきてオムツを片付け、日付を耳元でささやいたのかな」と勘繰りたくなりました。
こういう時には女神より、魔物のほうがいいのになあと思いながら、調査員に「普段はこーです、あーです」と必死に伝えるケアマネです。
石田美恵
東京民医連のケアサポート千住(足立区)所長
全日本民医連「ケアマネジメント委員会」委員長
いつでも元気 2024.6 No.391