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いつでも元気

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けんこう教室 脊柱管狭窄症

アレックス脊椎クリニック院長
整形外科医
フィットネストレーナー
吉原 潔

 下半身の痛みやしびれなどを伴い、日常生活にも支障を来す脊柱管狭窄症。
 診断や治療のほか、悪化を防ぐ体操について、アレックス脊椎クリニック(東京都世田谷区)の吉原潔院長に寄稿していただきました。

Q 脊柱管狭窄症とはどのような病気ですか。

A…脊柱管とは、背骨(脊椎)の中にある神経の通り道です。背骨は椎骨が積み重なってできており、上から頸椎、胸椎、腰椎、仙骨、尾骨と呼ばれます(資料1)。
 背骨の中には神経(脊髄、馬尾神経)が走っており、脳からの指令を伝えたり、知覚した情報を脳へ伝えたりしています。加齢やけがなどによって背骨が変形すると、脊柱管が狭くなって神経を圧迫し、それが痛みやしびれにつながります(資料2)

Q 脊柱管狭窄症の症状や原因について教えてください。

A…脊柱管狭窄症で最もよく見られる症状は、お尻から足(太もも・ふくらはぎ)にかけての痛みやしびれです。少し歩くと足のしびれやだるさが出現し、しばらく休むと楽になり再び歩けるようになる「間欠性跛行」という症状もよく知られています。
 腰痛はあっても軽度のことが多く、重症になるにつれて会陰部(股間)の灼熱感や違和感を訴えるようになります。排尿困難や残尿感などの膀胱直腸障害が生じるのはかなりの重症例です。
 脊柱管狭窄症のもっとも大きな原因は加齢です。加齢による背骨の変形のほか、背骨の周りの靱帯が厚くなって神経を圧迫することもあります。
 一方で、家系や遺伝などで生まれつき脊柱管が狭めの人もいて、そのような人は中年以降の比較的早い時期に発症します。

Q 脊柱管狭窄症の診断はどのように行いますか。

A…外来検査として最も有効で簡単に行えるのがMRI検査です。脊柱管のどの部分でどれくらい狭くなっているのかが簡単に分かります。閉所恐怖症だったり心臓ペースメーカーをお持ちでMRI検査を行えない人は、入院して脊髄造影検査とCT検査を行います。
 医療機関でレントゲンだけ撮って「脊柱管狭窄症ですね」と言われることがあるかもしれません。しかし、それは必ずしも正確な診断ではなく、症状や骨の形から類推しているにすぎません。まして何%くらい狭窄しているかといった細かいところまでは分かりません。
 しっかりとした診断を受けることが、治療への第一歩です。症状や違和感が出たら、早めに受診してください。

Q どんな治療法や薬がありますか。

A…脊柱管狭窄症の主な治療方法は、薬物療法、神経ブロック療法、理学療法の3つです。
 薬物療法は、最も多く行われています。各種鎮痛薬や神経組織への血流を増やす薬(プロスタグランジン製剤)が主体です。筋弛緩薬やビタミン剤、漢方薬などが処方されることもあります。
 神経ブロック療法は、一般的にはブロック注射と呼ばれている治療です。強い痛みを起こしている部分に、薬を直接注入します。ブロック注射でどの程度痛みが軽くなるか、効果がどれくらいの期間持続するかは、個人差があり一定しません。
 理学療法は運動療法とも呼ばれ、姿勢の改善や筋力の強化を目指した運動を行います。理学療法士の指導のもとに、個々の状態に合わせた適切な運動をすることで、症状改善が見込めます。リハビリという名目で牽引療法、温熱療法、マッサージ、鍼灸などが行われる場合がありますが、それらはエビデンス(証拠や根拠)に乏しく、効果も一時的なことが多いとされています。
 外来で治療しても改善が見られない場合や、著しい筋力低下、膀胱直腸障害が出てしまった時などには手術を検討します。手術は神経を圧迫している原因をとり除く「除圧術」と、背骨をネジで固定する「固定術」の2種類があります。手術を受けても、脊柱管狭窄症に由来するしびれは取れずに残ってしまうことはよくあります。

Q 個人でできる対策や対処法、予防法などはありますか。

A…脊柱管狭窄症の予防として、頸椎から腰椎まで背骨を全体として動かす体操やストレッチが有効です。日頃から背骨を動かしていないと、加齢とともに動かしにくくなり、そのうちにある特定の部位だけで動かすような習慣がついてしまいます。1カ所だけに負担をかけ続けると、その部位が脊柱管狭窄症を発症しやすくなります。
 背骨を全体として動かすためには、体幹に隣接する股関節や肩関節の柔軟性も重要です。普段から股関節や肩関節の柔軟性を高めるストレッチやエクササイズなどをしておくと、腰への負担軽減につながります。反り腰の人は、腰を反らす姿勢を改善すると症状が軽減することもあります。
 生活習慣としては、タバコを吸わないことです。タバコに含まれるニコチンは血流を悪化させて、椎間板が変性する原因になります。喫煙者は脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニアのリスクが高まりますので、すぐにでも禁煙しましょう。
 最後に脊柱管狭窄症の悪化を防いだり、予防する体操をご紹介します(資料3)。ただし、無理は禁物です。主治医に相談しながら、無理のない範囲で取り組んでください。


〈筆者の書籍紹介〉
脊柱管狭窄症 最新最強 自力克服大全

監修:吉原 潔
出版社:わかさ出版
定価:880円(税込)

いつでも元気 2024.5 No.390