青の森 緑の海
サンゴ礁からできた琉球石灰岩は沖縄島の30%の面積を占めている。なかでも南部地域は隆起した琉球石灰岩が地表や海岸に露出し、ゴツゴツとした独特な景観を見せる。石灰岩は大気中の二酸化炭素を固定し、地球温暖化の進行を遅らせている。
写真の具志頭浜は、沖縄戦の記憶も色濃い摩文仁の丘の東に位置する自然海岸。白砂の浜にいくつもの巨岩が立ち並んでいる。巨岩は海崖が剥がれ落ちたあと、長年の波や風雨の浸食によって遥かな時間をかけて現在の形になった。
巨岩のくびれた根元の部分は「ノッチ」と呼ばれる。貝や藻類が住処を作るために削り、溶かし、石や砂を含んだ波が常に押し寄せることなどで形成された窪みだ。いかなる巨岩も長い時間でみれば、わずかずつ小さくなっていく。
地元では、こうした巨岩を方言で「ブリ」と呼ぶ。特に親しまれているのが写真のような「マスブリ」。マス(マース)とは方言で塩のこと。「塩の巨岩」ということになる。
ノッチの周囲を歩いてみると、窪みの部分に確かに塩の結晶があった。波打ち際に近すぎれば濡れてしまうし、雨がじかに当たる場所でもこうはいかない。絶妙な位置と長い長い時間が自然の塩田を作り上げ、この見事な結晶を生んでいる。
塩を持ち帰り野菜炒めやパスタに使ってみたら、海の香りがして最高だった。
【今泉真也/写真家】
1970年神奈川生まれ。中学生の時、顔見知りのホームレス男性が同世代の少年に殺害されたことから 「子どもにとっての自然の必要性」について考えるようになる。沖縄国際大学で沖縄戦聞き取り調査などを専攻後、一貫して沖縄と琉球弧から人と自然のいのちについて撮影を続ける。写真集に『神人の祝う森』『SEDI/ セヂ』など。写真集の購入はホームページまで。
http://www.shinyaimaizumi.com/
いつでも元気 2024.5 No.390