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いつでも元気

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まちのチカラ 大分県玖珠町 機関庫公園と恵みの水

文・写真 橋爪明日香(フォトライター)

蒸気機関車29612号がたたずむ豊後森機関庫公園

蒸気機関車29612号がたたずむ豊後森機関庫公園

 大分県の西部に位置する玖珠町。
 豊後森機関庫公園など歴史資産と、山すそから湧き出る豊富な水に恵まれています。
 豆腐やしいたけ、伝統食などのおいしいものと、豊かな自然を巡りました。

 福岡空港から車で約1時間半、玖珠町に到着しました。町のシンボルは上部が平らで切り株のような形をした伐株山。町にはいくつもこうした山があり、「メサ」(卓状台地)、「ビュート」(メサがさらに浸食され孤立丘となったもの)と呼ばれ、日本中を探してもここにしかない景色です。
 約100万年前の噴火で、玖珠カルデラが誕生。そこに、約9万年前の阿蘇山大噴火で火山灰や軽石等が堆積しました。その後、風雨などによって軟らかい地層が削られ、残った硬い地層がメサやビュートになりました。
 まずは町の中心地にある豊後森機関庫公園を訪ねました。旧豊後森機関庫は1934年に完成した蒸気機関庫で、最盛期には25両もの機関車が所属し、1日の利用者は5000人を超えました。鉄道の町として大いに栄えたのです。
 公園には鉄筋コンクリート造りの扇型機関庫と鋼鉄製の転車台、機関庫の前には放射線状に延びる線路跡もはっきりと残っています。
 展示されている蒸気機関車29612号は「キューロク」という愛称で親しまれました。1919年に製造されてから55年もの間、長崎本線や唐津線で旅客、貨物の輸送に活躍。1945年8月には、長崎の原爆被害者を乗せて走りました。
 旧豊後森機関庫と転車台は2012年に国の登録有形文化財となり、その勇姿と功績を後世に伝えています。

湧水で豆腐づくり

 玖珠町はお水が豊かでおいしいところ。町西部で湧水をテーマとした「ガストロノミーモニターツアー」(その土地の風土や伝統に育まれた食文化を楽しむツアー)が開催されると聞き、参加しました。
 まずは道の駅「慈恩の滝くす」へ。上段20m、下段10mと合わせて30mの落差がある二段滝が見応えの慈恩の滝からスタートします。マイナスイオンに包まれたあとは、滝の上流域にある山浦地区へ向かいます。
 ここは「平成の名水百選」の下園妙見様湧水がある秘められた場所。万年山の麓から1日2903トンの水が湧き出ます。そばに祀られた妙見社がその名の由来です。山浦地区の住民は、将来限界集落となることを防ごうと、恵みの水を活用した地域づくりとして「万年元気とうふ」の名で豆腐作りをしています。
 ツアーでは「妙見様名水御膳」が振る舞われ、地元産品と名水で作ったザル豆腐、白和え、とうふハンバーグなどがずらり。大豆の甘みが際立ち、とてもまろやかな味わいと作り手の温かな“おせったい文化”を感じます。
 「先祖が何百年も守ってきた水を地域活性化につなげ、長く子どもや孫たちが継いでくれますように」と、熱い思いを語るのは住民の梅木逸美さん。澄んだ名水のように心が潤いました。

原木しいたけのほだ場

 大分県は全国一の生産量を誇る干ししいたけの産地。なかでも玖珠町のしいたけは、大分県の品評会で毎年優秀な成績を収めています。標高600mの山あいで、135年にわたり原木しいたけを栽培する江藤しいたけ園を訪ねました。
 長男夫婦と一緒にしいたけを栽培する3代目の江藤徳美さんに案内してもらったのは、自宅から歩いてすぐの山中にあるしいたけのほだ場。全長1mくらいに統一されたほだ木が整列し、所々に立つ杉の木から木漏れ日が差しこみます。
 「しいたけが育つには、植菌(原木に種菌を植え付けること)してから1年半から2年かかる。できた時は本当に嬉しいですよ」と笑顔を見せる江藤さんの指南で、しいたけ狩り体験をさせてもらいました。
 ひょっこりと顔を出す可愛らしいしいたけの軸を持って、上か下にずらせば簡単にもぎ取れます。大きなものは直径20cmもあり、ふっくらと厚みがあります。
 生しいたけとしてシンプルに焼いて食べるのもいいですが、乾燥させるとビタミンDなどの栄養素が増え、味や香りも格段によくなります。ぜひ滋味あふれる本物の味を試してみてください。

伝統食 子育てだんご汁

 最後にご紹介するのは、玖珠町に昔から伝わる伝統的な料理子育てだんご汁です。この地方の各家庭で作るだんご汁は「だご汁」とも呼ばれます。だんごは小麦粉や米粉、もち米粉をこねて作りますが、家によってそれぞれの作り方があり、それが“おふくろの味”となっています。
 だんごは一度ゆでてから、みそやしょうゆ仕立てで大根や人参など季節の野菜と一緒に煮込みます。子育てだんご汁には、米粉、もち米粉のだんごと芋がらを入れます。
 米粉、もち米粉で作っただんごは「母乳の出がよくなる」、芋がらは「血の巡りがよくなる」と言われ、古くから出産後の嫁にしゅうとめが振る舞う習慣がありました。また、丸いだんごには「赤ちゃんが丸々と育つように」という願いも込められています。
 「当たり前に食べてきたものが今は当たり前でなくなってきています。地域の味を守り、若い世代にも伝えていきたい」と、子育てだんご汁をメニューに出すのはお食事処 金太郎。たっぷりの地元野菜の甘みと、つるっと食べやすいだんごの優しい味わいが身に染みました。
 おいしいものと豊かな自然、人の心に触れてリラックスできる玖珠町。日常を抜け出して、一度訪れてみてください。

■次回は岡山県新庄村です。

まちのデータ

人口
1万4108人(2023年10月末現在)
おすすめの特産品
玖珠米、原木しいたけ、地酒
アクセス
福岡空港、大分空港から町役場まで車で約1時間半、JR博多駅から豊後森駅まで電車で約1時間50分
問い合わせ先
玖珠町観光協会 0973-72-1313

いつでも元気 2024.2 No.387