民医連70年 世界を翔る民医連
文・舟越光彦 写真・廣田憲威(大阪ファルマプラン)
9月にオーストリアのウィーンで行われた「第29回国際HPHカンファレンス」に、民医連から12人の職員が参加しました。
千鳥橋病院(福岡市)の舟越光彦医師の報告です。
HPH ※ とはWHO(世界保健機関)が1988年に開始した国際的な病院とヘルスサービスのネットワークです。HPHができた背景には、高齢化や健康格差が広がる社会で、医療機関の役割が治療だけでなく、健康な地域づくりに貢献することが求められるようになってきたことがあります。
国際HPHカンファレンスは各国の「健康づくり」を交流する世界最大規模の学習会で、今回は400人の研究者や医療関係者が参加。民医連からは医師6人を含む12人が出席し、最先端の研究成果を学ぶとともに、民医連の実践を報告しました。
全日本民医連が1953年の創立以来、共同組織とともに取り組んできた「地域まるごと健康づくり」や「安心して住み続けられるまちづくり」は、いまや世界でも普遍的な活動といえます。
科学的に証明された
民医連の健康観の特徴は、病気を生物学的な側面だけでなく、患者の生活や労働の場で捉える社会的な視点を持っていること。この健康観を理解するために、「通院を中断しがちな高血圧の患者」を例に考えてみましょう。
まじめに通院しない患者を叱責する医療機関があるかもしれません。しかし患者の話を詳しく聞くと、経済的な理由や長時間労働で受診できない背景が見えてくることがあります。こうした場合、私たちは経済的な困窮を緩和する社会資源を活用し、通院できる条件を整えようと努力します。同時に社会に対して、安心して生活できる社会保障制度や労働条件の改善を求めて運動してきました。
一方、医学研究の世界では、所得や学歴など社会的な要因が健康を左右するという研究が蓄積、1998年にWHOが健康の社会的決定要因(SDH)に関する冊子を発行しました。民医連が実践してきた社会的な視点を持った医療は、科学的にも必要であると証明されたわけです。
世界に先駆けた実践
また、民医連は無差別・平等の医療と介護を掲げてきました。差額ベッド代を徴収しないことはその象徴ですが、日々の活動でも貫いています。例えば経済的な理由で保険証を持っていない場合でも、まずは必要な医療を提供し、生活保護といった制度を活用して療養を継続できるようにします。日本の中では特殊かもしれませんが、実は世界を見渡すと、こうした実践こそが求められています。
米国の研究機関は2001年、「質の高い医療は公正であることが必須条件」と定義しました。同様にOECDも、良い医療の条件として公正であることを求めています。患者が置かれた社会的経済的な状況の違いに関わらず、「良い医療を提供することが質の高い医療である」ことが共通の認識になっています。この点でも、民医連の医療と介護は国際的に共通する普遍的な活動といえます。
生活と労働の視点で病気を捉える健康観と無差別・平等の実践は、民医連の先輩が日常の診療からつかみ取って理論化したものです。この二つの特徴は現在の世界の健康観と良い医療の在り方と合致し、しかも民医連が先駆けて取り組んできました。
このことに確信を持ちつつ、私たちの経験を国際的にも共有してもらう働きかけが必要です。同時に民医連の先輩のレガシー(遺産)の上に、どのような価値を新たに加えていくかは、現在の世代に与えられた課題でしょう。
広島で国際カンファ
日本HPHネットワークは2015年に結成され、民医連からは112の病院と診療所などが参加しています。同ネットワークが主催し、2024年11月に日本で初めて国際HPHカンファレンスが広島で開催されます。900人規模で、世界から一流の専門家が参加する予定です。
今回の国際カンファのテーマ案は、「健康の公正性を推進するヘルスプロモーション」です。世界は今、人類の存続にかかわる多くの危機に直面しています。気候危機や核兵器と戦争の脅威、貧困と格差の拡大、新たな感染症、さらに難民や急速な高齢化も課題です。こうした情勢の中で、「健康の公正さ」を実現する手法を探ると同時に、健康の前提条件である平和についても議論します。
開催の意義は、第一に日本の医療と医学会を代表する医師を顧問に開催するカンファで、「公正」をテーマにすることです。開催を契機に、日本が公正さに着目した医療へ発展することが期待されます。
第二に、被爆地広島で開催することです。ウクライナ、パレスチナで大規模な戦争が起き核戦争の脅威が迫る時期に、世界から医療と公衆衛生のオピニオンリーダーが集う場で、平和な社会を実現するための議論が交わされる極めて重要な機会です。
第三に、公正な医療や健康な地域づくり、気候危機対策など世界各地の実践を学ぶ貴重な機会になります。民医連としても先駆的な経験を世界に発信する絶好のチャンスです。
共同組織の皆さんも、国際カンファに参加して演題を発表してください。皆さんの地域での実践は、海外の研究者もおおいに注目しています。世界で最も高齢化した日本で、共同組織が展開する諸活動は海外の研究者にとって未来社会の対策の参考となるからです。
例えば高齢者を一人ぼっちにしない仲間づくりや健康づくりの実践、認知症予防の活動は関心を集めるでしょう。多くの皆さんが参加し、日ごろの活動を発表していただくことを期待しています。
※HPH Health Promoting Hospitals & Health Services(健康増進活動拠点病院)の略
舟越光彦
1987年、熊本大学医学部卒。千鳥橋病院予防医学科科長、公益社団法人福岡医療団理事長。2024年に日本で開催される第30回国際HPHカンファレンス組織委員会の事務局長を務める。
いつでも元気 2024.1 No.386