• メールロゴ
  • Xロゴ
  • フェイスブックロゴ
  • 動画ロゴ
  • TikTokロゴ

いつでも元気

いつでも元気

けんこう教室 お口は健康のバロメーター

 一生にわたって歯と口をケアすることが、全身の健康状態や「幸福感」にも関係することが分かってきました。
 東京医科歯科大学の相田潤教授に寄稿していただきました。

東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 健康推進歯学分野 教授 相田 潤

東京医科歯科大学
大学院医歯学総合研究科
健康推進歯学分野 教授
相田 潤

 この10年ほどの間に、歯と口の健康に対する医療関係者の認識が変わってきました。きっかけになったのが、2013年に出された「病気の多さ」についての論文です。
 論文は291の疾病について、有病者率の世界ランキングを示しました(資料1)。最も多かったのは「治療が必要な永久歯のむし歯」(35・3%)。6位に「重度の歯周病」(10・8%)、10位に「治療が必要な乳歯のむし歯」(9%)が入るなど、トップ10に3つの歯科疾患がランクインしました。これをきっかけに、「歯科疾患は他の疾患と比べて有病者率が高い」という認識が国際的に共有されたのです。
 21年5月27日、世界保健機関(WHO)の第74回世界保健総会において、「口腔保健に関する決議」が承認されました。決議は「劣悪な口腔衛生が全身の健康状態に大きく影響すること」などを指摘しつつ、加盟国に対して政策の強化を求めています。
 国際歯科連盟(FDI)やアメリカ歯科医師会はこれを“歴史的な決議”と呼びました。残念ながら日本では、この決議に関して発出された文章は少ないようですが、日本口腔衛生学会からは提言や声明が出されています。

「3人に1人」がむし歯

 歯科疾患の有病者率が高いという状況は、実は日本でも同様です。資料2は16年の厚労省「歯科疾患実態調査」の結果です。
 20代以上のすべての年代で、およそ3人に1人が未処置のむし歯を有していることが分かります。歯周病や歯の喪失も多く、特に高齢者において、むし歯や歯周病を持つ方が増えていることが分かっています。
 また、80歳で20本以上の歯を持つ人の割合は改善しているのですが、高齢者の絶対数が増えているため、歯が19本以下の高齢者は1999年の約700万人から2016年の約900万人へと大きく増加しています。
 歯を失うとどうなるのか? これに関しても近年さまざまな知識や見識が蓄積されてきました。当然ながら歯を失うと、食べづらく話しづらくなったり、人に見られると恥ずかしいといったことが起こります。結果として歯と口の状態が悪いことは、人との交流も減らしてしまうことが知られています。

「幸福感」にも影響

 資料3はひとり暮らしの高齢者が、ひとりで食事をする「孤食」の割合を示したものです。歯が少なく、入れ歯の治療をしていない人で孤食の割合が高いことが分かります。一方で歯が少なくても入れ歯を使っている人では、歯が20本以上ある人と大きな差はありません。
 入れ歯を使っていない人は、見た目を気にしたり、食べ物の種類を気にしたり、食べるのに時間がかかるのを気にするといったことがあるでしょう。これらは友人などから食事に誘われた際にためらわせる要因となり、孤食を増やすと考えられます。
 人との交流はさまざまな経路で健康に影響し、近年では認知症の発症や死亡率とも関係することが明らかになっています。歯の状態が悪いことで、人との交流が減って認知症になりやすくなるといったことも研究で示されています。
 結果として、歯と口の状態は「幸福感」にも影響します。資料4は歯の状態や入れ歯の使用状況と、「幸福だ」と回答した人の割合を示します。歯が20本以上の人に比べて、歯が少なく「入れ歯なし」の人で幸福感が低いことが分かります。入れ歯を使っている人では、幸福感はほとんど低下していません。
 歯を失わないようにすること、歯を失っても治療して入れ歯を使用することは、私たちの健康や日常生活、幸福感の上でも重要なのです。

歯と口の健康を守るために

 では歯と口の健康を維持するにはどうしたらいいのでしょうか。歯をきちんとみがき(入れ歯を使っている場合はその清掃も)、デンタルフロスなど歯と歯の間を清掃する道具を使うこと、フッ化物(フッ素)の入った歯みがき粉を使うことが大切です。
 特に歯みがき粉は、最近はフッ化物の濃度が高い製品が出ています。「高濃度フッ素」と書かれた製品が6歳以上の方にはおすすめです。保育園・幼稚園や小中学校などで日常的にフッ化物洗口 を実施すると、むし歯を予防して口腔の健康格差が縮小することも知られています。
 また喫煙は歯周病を増やしますので、(加熱式タバコも含めて)やめましょう。かかりつけの歯科医院で、歯ブラシではとれない歯石を除去するといったクリーニングを定期的に行うといいでしょう。子どもの頃からのむし歯や歯周病の予防は、歯の喪失を防ぐことにつながり、それが生涯を通じて全身の健康にも良い影響を与えると考えられています。

フッ化物洗口…フッ化ナトリウム溶液で口腔内を洗いすすぐこと。歯みがき粉やフッ化物洗口に使われるのは無機フッ素化合物であり、世界中で規制が進むPFAS(ピーファス、有機フッ素化合物)とは別物

いつでも元気 2024.1 No.386