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いつでも元気

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スラヴ放浪記

文・写真 丸山美和(ルポライター)

クラクフ中央駅から発車するポーランド国鉄の列車。新しく快適だが、よく遅れる

クラクフ中央駅から発車するポーランド国鉄の列車。新しく快適だが、よく遅れる

遅延、逆走、迷走
ポーランド列車事情

 私はポーランド南部のクラクフ市で暮らしている。日本から約8000km、欧州のど真ん中だ。
 ポーランドで、こんなコントを見たことがある。ネタの設定はポーランド国鉄の採用試験。
面接官「あなたは自分自身をどう評価しますか?」
志願者「温厚で人当たりがいいです。でも時間にルーズ。よく待ち合わせの時間に 遅れます」
面接官「採用決定!」
 たびたび遅れるポーランド国鉄を皮肉ったもの。私も多くの洗礼を受けた。

 3月初旬、取材先の首都・ワルシャワからクラクフへ戻る日のこと。ワルシャワ中央駅で列車を待っていたが、定刻をだいぶ過ぎても来ない。駅員に聞いても「遅れている」の一点張り。するといきなり人の波が動き始めた。
 駅員が「4番線へ行け」と怒鳴る。別のホームに列車が来たのだ。私は重いトランクを抱えて階段を上ったが、列車は行ってしまった。同じくトランクを抱えて乗り遅れた女の子が、駅員に向かって泣いて怒っていた。ウクライナ語だったので、難民だったのかもしれない。
 また、別の取材で1時間ほど遅れてやって来た列車に乗った時のこと。乗車して約1時間後、なんと列車が来た方向へ戻り始めた。逆走する列車に乗るのは生まれて初めてだ。
 列車は30分ほど戻るとしばらく止まり、再び本来の方向へ。クラクフ中央駅に着いたのは定刻から4時間後のこと。
 到着前、車内で水とチョコ菓子が配られ、乗客は穏やかな笑みを浮かべて受け取っていた。日本なら怒号が飛ぶのではないか。
 この“大事件”を現地の友人に話したが、「別に珍しくないよ。日本人だからビックリしたんだろうね」と笑っていた。
 2週間後、ワルシャワ発クラクフ行きの同じ列車に乗った。すると、いつもよりもかなり飛ばしている。着いたのはなんと定刻の30分前。驚いて車掌に「随分早いがどうしたの」と尋ねたら「休憩時間が30分増えたから、いいのさ」と去っていった。

 スラヴ語を話す人々が住む地域をスラヴ圏という。スラヴ圏の多くの国は旧ソ連の衛星国で、市街地はトラム(路面電車)が発達。クラクフ市もトラムが街を網羅している。このトラムも、時として怪しい。
 先日、クラクフ市近郊の町、ノヴァ・フタへ取材に向かうため、トラムを待っていたが来ない。いくら待っても来ない。
 しばらく経つと、「ノヴァ・フタのほうへ」と曖昧な電光表示を掲げた、かなり古めのトラムがカタンカタンとやって来た。もちろん、そんな適当な駅名はない。近くにいた乗客に目指す停留所を言ったら、あくまで冷静に「たぶん行くと思う」と答えた。仕方がないので乗ってみた。
 乗客の姿はなく、車内に掲示された行き先と停留所は、ノヴァ・フタとは逆方向の路線と番号が記されている。アナウンスもなく、不気味に静かだ。不安な気持ちのまま乗っていたが、トラムは無事、目的の停留所に到着した。
 おそらく運休に伴い、急きょ古い車両で間に合わせたものの、案内表示の変更が間に合わなかったのだろう。

 迷走するポーランドの列車事情と比較し、ウクライナは正確だ。昨年、ウクライナでリビウからキーウまで寝台列車に乗った。10分遅れでリビウを出発したが、キーウに着いたのは定刻通りだった。
 ウクライナ国鉄はもともと時間に正確だと聞いていた。しかし現在戦争中で、夜行列車は灯火管制のもとで疾走する。ロシアによる空襲の危険もある。危険にさらされながらも、任務を全うするウクライナの国鉄マンに頭が下がる思いがした。

 ポーランド在住のルポライター丸山美和さんが、ウクライナやベラルーシ、チェコ、スロバキアなどスラヴ圏を旅します。

いつでも元気 2024.1 No.386