ハーフタイム
増田剛(全日本民医連会長)
薬が足りない
風邪をひいたら風邪薬、熱が出たら解熱剤、細菌感染には抗生剤などなど。病気になって医療機関にかかったら、薬をもらってきて自宅で安静に。これが私たちの知っている“普通”です。ところがここ数年、この“普通”が危うくなっているのです。
2020年に、後発(ジェネリック)医薬品製造過程に不正が発覚し、全国調査の結果、計13社で不祥事が明らかになりました。業務停止(11社)など処分が下された影響で、全国でジェネリック医薬品を中心に薬不足が顕在化したのです。
製薬会社でつくる「日本製薬団体連合会」が昨年12月、223社の調査結果を発表しました。調査によると全体の28%、4234品目で供給不足になっており、うち1099品目が出荷停止の状態でした。供給不足の約9割、3808品目が後発医薬品で、実にジェネリック全体の41%が供給不足となっていたのです。
NHKの投稿フォームに寄せられた市民の声です。
「薬がなくなって発作で倒れ、命にかかわる事故が起きたらと思うと本当に恐ろしい」(抗けいれん剤を常用する患者の母親)。
「薬剤師として必死にかき集めています。状況をご理解いただき薬剤師に当たらないようにお願いします」(現場薬剤師)。
こうした事態を招いた直接の原因は一部製薬メーカーの不祥事ですが、医薬品製造における国の責任こそが問われるべきです。
医療費抑制のために、安価なジェネリック医薬品の使用を強烈に推し進めてきたにもかかわらず、その品質を担保するだけの精度管理や人的保証、社内教育への支援を怠ってきた実態があります。
続いて製薬メーカーの社員の声を紹介しましょう。
「品質管理部門は人材不足」「『数を作れ』と言われても適切な製造の知識がない」「風通しも悪く、現場が問題を報告しても黙殺されてしまう」「中小メーカーで設備投資ができない」「給与が安くて人材が定着しない」「現場のモチベーションが低く、ミスや事故が起きてもうやむやで終わらせてしまう」など。想像を絶する状況がうかがえます。
ジェネリック医薬品の薬価を採算ぎりぎりまで切り下げ、結果、製薬メーカーに極度の「効率化」を強いている現政権の薬価政策が、こうした安全、品質保持を軽視した不正製造の原因の一端となっているのではないでしょうか。
この国の製薬の在り方を抜本的に見直し、品質と安全を最優先にした制度設計につくり変えていくことが強く求められています。
いつでも元気 2023.11 No.384
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