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いつでも元気

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まちのチカラ 奈良県曽爾村 高原を覆うススキとぼたん鍋の味わい

文・写真 橋爪明日香(フォトライター)

曽爾高原のススキと夕日(曽爾村観光協会提供)

曽爾高原のススキと夕日(曽爾村観光協会提供)

 奈良県の東北端に位置する曽爾村。
 東部の曽爾高原では秋になると黄金に輝くススキが一面に広がり、西部には個性的な大岩壁が連なります。
 のどかな里山の暮らしをご紹介します。

 大阪駅から車で約2時間、三重県との県境に位置する小さな村、曽爾村に到着しました。山と渓谷に恵まれた曽爾の里は、のどかで秘境感が漂います。
 まず目指したのは、関西屈指の高原リゾートとして名高い曽爾高原。日本300名山の一つ倶留尊山(標高1037m)から亀の背に似た亀山(標高849m)を結ぶ西麓に広がり、一面をススキに覆われた草原です。毎年2月頃に山焼きが行われ、春から夏にかけてはまるで青い絨毯が敷かれたような爽快な姿に。秋にはススキの穂が陽射しを浴びて銀や金色に輝き、多くの観光客が訪れます。
 駐車場から歩いてすぐ、目の前の広大な景色に思わず息をのんでしまいました。すり鉢状の地形の真ん中に「お亀池」があり、周辺はなだらかな散歩道です。
 池の水は雨水と山からの伏流水によって蓄えられ、湿原特有の希少な植物も見どころ。さらに稜線上まで登ってみると、遮るものがない絶景が広がります。ぜひ圧巻の景色と、心地よい高原の風を肌で感じてみてください。

漆の復興に挑戦

 村はいにしえの時代より「ぬるべの郷(漆部郷)」と呼ばれ、漆塗り発祥の地とされています。塩井地区の古民家を改築した、漆塗りの文化と技術伝承の拠点ねんりん舎を訪ねました。
 ここでは村の漆復興の取り組みを紹介するほか、工芸品を制作するための工房や展示スペースがあります。裏庭の漆植栽地では、漆の木が育つ様子から一連の作業を見ることができます。
 平安時代の古文書によると、村には漆を司る政庁「漆部造」が置かれていたと記されています。江戸時代には漆塗りの文化は途絶え、名前だけが残りました。
 2005年、塩井地区の住民有志が中心となって漆の木を植えて育て、村で採れたわずかな漆を使って柿の葉の器の制作が始まりました。
 取材した日は、並木美佳さんが工房で拭き漆という技法を使い、柿の葉に薄く輝く漆を塗っていました。並木さんは地域おこし協力隊の元隊員で、埼玉県から移住しました。
 「今育てている木から、漆が安定的に採れるようになるのは7?8年後。村の漆で、奈良県の国宝や重要文化財の修復をまかなえるようになることを見据えています」と並木さん。本格的な漆文化の再興に夢が膨らみます。

天然猪肉 ぼたん鍋

 次は築140年の歴史を持つ古民家の宿に泊まれると聞き、伊賀見地区にある木治屋に向かいました。合掌造りの立派なたたずまいで、玄関には昔ながらの古道具が飾られています。扉を開けて中に一歩足を踏み入れれば、明治時代にタイムスリップしたかのよう。
 この家に生まれ育った宿主の木治正人さんが「昔はこうやって暮らしたんですよ」と、子どもの頃に飼い葉と塩とぬかで牛の餌を作るのが仕事だったことなどを語ってくれました。「古民家を体験してもらい、今の暮らしがいかに快適かを見直して大切にしてほしい」との思いで、国内外から旅人を迎えています。
 宿主手作りの岩風呂を楽しんだあとは、お待ちかねの夕食。木治屋の名物といえば、村の大自然の山で捕獲された野生の猪肉を使ったぼたん鍋です。
 お花のように盛り付けられた真っ赤な猪肉と一緒に、地元の野菜をたっぷりと投入。村に伝わるおかめみそをベースに、甘酒や酒粕など約10種類をブレンドした木治屋オリジナルの特製出汁が、猪肉のうま味を絶妙に引き出し、深い味わいです。猪肉は村の猟師が上手に血抜きをしてくれるので臭みがなく、上質な脂と肉らしい食感。ぜひ里山の暮らしを味わってください。

断崖絶壁の美 屏風岩

 村の西北部は屏風岩、兜岳、鎧岳などの大岩壁が連なります。山と谷が織りなす壮大な景観を確かめるなら、屏風岩公苑がおすすめです。
 屏風岩(標高940m)は兜岳の西側にあり、あたかも屏風を立てたかのように高くそびえ立っています。その幅2㎞、のこぎりの刃のような岩壁が垂直に約200mの断崖をなしています。岩壁にはミツバツツジが咲き誇り、麓に広がる公苑は春には樹齢100年といわれる約300本もの山桜が咲き乱れます。
 秋の紅葉は11月中旬が見頃で、赤や黄色に彩られ白い岩壁とのコントラストが見事。山道を走りますが、車で公苑の中心部まで行くことができます。
 ほかにも、300年受け継がれている曽爾の獅子舞が奉納される門僕神社祭り(毎年10月)など、里山ならではの郷土芸能が村人の結びつきによって継承されています。
 自然の清らかな空気と人々の温かさに包まれている曽爾村。日本の四季を楽しみに訪れてみてはいかがでしょうか。

■次回は新潟県弥彦村です。

まちのデータ

人口
1301人(9月1日現在)
おすすめの特産品
ほうれん草、トマト、菊菜、地ビール
アクセス
東京駅から名鉄・名張駅(三重県)まで電車で約3時間半、名張駅から曽爾村役場までバスで約50分
問い合わせ先
曽爾村観光協会
0745-94-2106

いつでも元気 2023.11 No.384