青の森 緑の海
人は単独では生きていない。外界との繋がりだけでなく、体内には無数の微生物やウイルスが存在し、その総体として僕たちの生がある。
アメリカの分子生物学者、ジョシュア・レーダーバーグ(ノーベル生理学・医学賞)は、「宿主とその共生微生物は、それぞれの遺伝情報が入り組んだ集合体として存在していると考えるべき」と、人体生存の仕組みを定義した。
森にいると、いつも明確な生命のつながりを目にする。というより、すべてがつながっているのだと思う。写真の紫の植物は、奄美大島で出会ったルリシャクジョウ。「菌従属栄養植物」に分類され、葉がない10㎝ほどの植物だ。
彼らを支えるのは菌類。従属栄養植物は、他の生物やその遺体をエネルギー源として生きている。一方、光合成をする植物は「独立栄養植物」と呼ばれる。
奄美の森は亜熱帯の照葉樹林なので、落葉樹林と比べて落ち葉が少ない。林床は気温が高く微生物の働きが盛んだから、有機物はすぐに分解され土壌は薄くなる。
ルリシャクジョウの生えている場所は森の中でも限定的だ。そこはより深く樹々が茂り、日陰の時間が長く湿度が高い。
その分布特性から、彼らを支える菌類にとっても、生きやすい環境は限られていることが分かる。さまざまなつながりの上に、この葉を持たぬ花は咲いている。
【筆者から】
8月上旬の台風6号で沖縄や九州地方に大きな被害が出た。9月号の誌面は予言のようになってしまったが、多くの人が改めて自然の猛威を再認識したと思う。台風の大型化は海水温の上昇と直結している。地球環境の変化が止まらない限り、さらに大きな台風が生まれるし、7号のように日本全土を通過することも考えられる。本連載では引き続き大きな視点で、自然と人間の関わりを取り上げていきたい。
今泉真也写真展
「SEDI/セヂ」
(やんばるの森の写真)
日程 9月26日(火)~10月9日(月)
午前10時半から午後6時半
(最終日は午後3時まで。日曜休館)
入場無料/展示数68点/全日程筆者在廊
会場 ニコンプラザ東京
(☎03・3344・0565)
東京都新宿区西新宿1-6-1
新宿エルタワー28階
JR新宿駅西口徒歩3分
いつでも元気 2023.10 No.383