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いつでも元気

いつでも元気

民医連70年 入居者の笑顔を求めて

文・新井健治(編集部)写真・大橋愛

特別養護老人ホーム「たくまの里」 2007年開設。4階建て、50室(全て個室)。デイサービス、ショートステイ、居宅介護支援、訪問介護の5事業を展開。職員数70人(常勤47人)。たくまの名称は熊本市にあった肥後国府「託麻府」から

特別養護老人ホーム「たくまの里」 2007年開設。4階建て、50室(全て個室)。デイサービス、ショートステイ、居宅介護支援、訪問介護の5事業を展開。職員数70人(常勤47人)。たくまの名称は熊本市にあった肥後国府「託麻府」から

入居者さんの笑顔を求めて多彩な活動を展開する熊本市の特別養護老人ホーム「たくまの里」を訪ねました。

 「これはアロマオイルといって、ラベンダーの香りです」「よか、香りだね~」―。
 たくまの里の4階で、午前10時から始まった「たくまサロン」。職員がアロマオイルで入居者の手をマッサージします。ゆったりとした音楽が流れ、卓上には季節の花とキャンドルの灯りがゆらめき、施設とは思えない雰囲気。「特別な空間でくつろいでほしい」と話すのは、マッサージしていた松永聡子さん(作業療法士)。
 たくまサロンは昨年2月に始まった「朝活」のひとつ。コロナ禍で外出や面会の制限が続き、変化のない環境にストレスを感じる入居者もいます。朝活は入居者の活動を活発にするとともに、気分転換を兼ねて午前中にガーデニングや歌声喫茶、小物の制作、映画鑑賞などを短時間で楽しみます。
 たくまの里は七夕、夏祭り、クリスマス、節分、ひな祭りなど季節の行事のほか、バスハイク、スイーツパーティー、おでん会などさまざまなイベントを開きます。
 朝活がこうしたイベントと違うのは、少人数で入居者の好みと身体の状態に合わせて行うこと。松永さんは「普段はどうしても集団での介護になりがち。一対一でスキンシップをすることで、ゆったりお話できて私も癒やされます。入居者さんの笑顔につられ、私も笑顔になります」と言います。

じっくり育てる若手職員

 たくまの里は若手職員がたくさんいます。介護施設では珍しく、半数が男性職員。入職3年目の鶴田樹生さん(28歳)は「上司が優しく働きやすい環境。介護の技術や知識を高めて、皆さんに満足してもらえる介護職になりたい」と話します。
 職員育成は先輩がマンツーマンで若手に教える「エルダー制」を採用。半年かけて早出、遅出などの勤務体系を経験し、夜勤に入るのは半年後からと時間をかけて育てます。
 「技術を教えるだけでなく、施設と民医連の理念を学ぶことを心がけています。1年間かけて支援することで、若手職員にも指導者にもストレスをかけないようにしています」と話すのは介護次長の益永武士さん。
 また、職員は全日本民医連や九州・沖縄地方協議会(地協)の集会にも積極的に参加。副施設長の齊藤信子さんは「外から自分たちの職場を客観的にみることで、当たり前のようにやってきた仕事の意義を再確認できる」と指摘します。
 4年目の岡村陽奈さん(22歳)は高卒後、介護の世界に飛び込みました。「『ありがとう』と言われると、やりがいを感じます。入居者さんに頼ってもらえる職員になりたい」と言います。
 岡村さんは九州・沖縄地協の青年ジャンボリー実行委員で、6月には平和を学ぶ企画で長崎の被爆遺構を見学。鶴田さんも今年8月の「原水禁世界大会」に参加する予定です。
 1953年に117の病院と医科診療所から始まった全日本民医連。2000年の介護保険制度創設から介護施設が増え、いまでは全国に約1万6000人の介護職員がいます(常勤換算)。特別養護老人ホームは全国に38カ所あり、たくまの里は熊本県内で唯一の民医連の特養です。

災害に備え地域と連携

 7月上旬から中旬にかけ、熊本県をはじめ九州地方が豪雨に襲われました。地球温暖化の影響で毎年のように災害が起きています。2020年7月の「熊本豪雨」では球磨川が決壊。施設は無事でしたが、県内で大きな被害が出ました。職員は被災した介護施設に物資を届け、浸水した建物の泥出しを支援。また、被災した施設から入居者を受け入れました。
 震度7を記録した16年4月の「熊本地震」では、273人が犠牲に(災害関連死を含む)。「自宅では怖くて眠れない」と被災した地域住民がたくまの里を訪れ、最大で90人が施設に泊まり、職員が通常業務を続けながら見守りました。
 当時、在宅介護科長だった益永さんは「今年の新入職員の多くは熊本地震当時はまだ中学生で、震災の記憶が薄れているかもしれない。火災や台風、地震に備え、年間で防災訓練を位置づけています」と話します。
 また、コロナ禍や物価高騰で困窮した人を対象に7月1日、支援物資の配布と介護・健康相談会を開き、25人が訪れました。地域住民を対象にしたこうした催しはこれまで熊本民医連とともに行っており、施設単独では初めて。
 たくまの里施設長の梅林隆臣さんは「いざという時に、地域とのつながりは大きな役に立ちます。防災訓練などで町内自治会と連携し、住民の皆さんにたくまの里がここにあることを知ってもらいたい」と話します。


元気で職場を活性化

 『いつでも元気』を活用しているのもたくまの里の特徴のひとつ。入居者の興味や関心を広げようと、今年4月から人気の誌面を1枚ずつラミネート加工し、職員と一緒に読んでいます。
 「せっかく写真がきれいなのだから、より美しく加工して入居者さんに見てもらいたい」と話すのは、共同組織委員会事務局の竹隈泰代さん(管理栄養士)。
 同じく共同組織委員会委員長の工藤陽子さん(ケアマネジャー)は「入居者さんはきれいな写真が好き。特にお花が人気です」と言います。高齢のためページをめくるのが難しい人でも、加工した誌面なら読むことができます。
 コロナ禍の始まった3年前から、「投稿キャンペーン」も開始。職員が本誌の「あらかると」に記事を投稿したり、ハガキを送ります。「『誌面に載るかもしれない』と職員のモチベーションアップにつながります。掲載された記事はご家族や、くまもと健康友の会の会員に送ります」と工藤さん。
 「たくまの里だより」や「朝活活動報告」を定期的に発行し、情報発信も心がけています。竹隈さんは「普段はなかなか見ることができない入居者さんの生き生きとした表情をお届けすることで、ご家族にも喜んでもらっています」と言います。
 たくまの里では各職種がさまざまな活動に取り組みます。イベントや『元気』の活用も、介護職だけでなく職員全員が企画段階からアイデアを出し合います。施設長の梅林さんは「施設の中庭をきれいにする草取りも全員でやりました。職員が行事に主体的に関わることで職場が活性化し、入居者さんの笑顔につながります」と話しました。

いつでも元気 2023.9 No.382