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いつでも元気

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ハーフタイム

増田剛(全日本民医連会長)

今でも鼻に残るその臭い

 今年も8月6日と9日がやって来ます。5月に広島で開催されたG7サミットで「G7首脳広島ビジョン」が発表されました。ビジョンはあろうことか、核抑止力を肯定する内容を〝広島〟の名を付けて宣言したのです。
 核兵器禁止条約成立に大きく貢献した広島の被爆者、サーロー節子さんは「自国の核兵器は肯定し、対立する国の核兵器を非難するばかりの発言を被爆地からするのは許されない」と怒りを露わにしました。多くの被爆者からも落胆と怒りの声が発せられました。
 ノーベル平和賞を受賞したICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)は、広島ビジョンについて「平和記念資料館や被爆者との面会で感じたことがあるはずだが、声明に全く反映されていない」と指摘。日本に対して「現状を変えるつもりがあるなら、核兵器禁止条約を支持するのが唯一の論理的な選択だ」と述べました。
 そもそも「核抑止論への固執こそが核兵器廃絶の阻害因子だ」として、被爆者の方々が先頭に立ち、核兵器の非人道性を世界中に訴えたことで、核兵器禁止条約の成立・発効に辿り着いたのです。
 これ以降、NPT(核不拡散条約)第6条(核軍縮)の着実な遂行と、核兵器禁止条約の両輪で運動を進めることが核廃絶への王道となりました。核兵器禁止条約に署名した国は92カ国、批准は68カ国に広がっています(今年1月現在)。
 今回の広島ビジョンは、こうした世界の大きな流れを全く無いことのように扱い、核廃絶を願う世界の人々の懸命な努力を踏みにじったといえます。
 一方、国内大手メディアはこぞってサミットの“成果”を肯定的に報じ、批判的なコメントは数えるほどしかありません。
 この悲しいギャップは何なのでしょう? 漫画『はだしのゲン』誕生秘話が朝日新聞で紹介されました。国民学校1年の時に被爆した故中沢啓治さんは、爆風で破壊された家屋の下敷きになった父・姉・弟が、目の前で生きたまま焼かれて死んでいく壮絶な経験から、漫画の中で徹底的に闘うことを誓います。残酷ともとれる描写について「実際はこんなもんじゃなかった。この中(漫画)には臭いもないだろう。音もないだろう」と話したといいます。
 東京大空襲を経験した90代のある患者さんが「人が焼かれる臭いというのは、ずっと鼻に残るんですよ。今でもね」と話されたことを思い出します。
 「人間として生きることも死ぬことも許されなかった」被爆者の訴える「非人道性」を、世界の為政者に心底悟らせることが、どうしても必要だと思います。

いつでも元気 2023.8 No.381