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いつでも元気

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キューバの妊婦を助けたい

文・写真 新田真矢子

妊婦にマタニティーセットを届けた新田さん(中央)

妊婦にマタニティーセットを届けた新田さん(中央)

 キューバで医師免許を取得した新田真矢子さんが、恩返しにとキューバの妊婦にマタニティーセットを届ける支援活動を始めました。

 キューバというと、福祉が進んだ国との印象があるかもしれません。実際、教育と医療は無料で、人口1000人あたりの医師数は9・3人(日本は2・7人)。家庭医を中心に地域医療に取り組み、平均寿命は79歳と近隣諸国と比べても高いです。
 しかし、米国の経済封鎖に加え、長引くコロナ禍で経済状態は疲弊。キューバの大学医学部を卒業後、2021年に再訪した際、住民にいつもの穏やかな笑顔はありませんでした。物価は5倍以上になり、店は長蛇の列。パン屋やスーパーで整理券をもらうため、4時間以上並ぶこともあります。
 逼迫しているのは食料だけではありません。「医者になったのに医療を提供できない」と大学時代の友人である医師が訴えるほど、医薬品や医療材料がありません。注射針や尿道カテーテル、血糖値測定用の試験紙にいたるまで全てが病院から消えていました。
 出産したばかりの友人から、こんな体験談を聞きました。「産婦人科では抗生物質や解熱鎮痛剤は足りないし、小児科にミルクもない」。友人は乳腺炎を患っていたのですが、十分な治療も受けられず苦しい日々を過ごしたそうです。診療所で無料で配布されていた鉄や葉酸、ビタミンを含むサプリメントは手元に届かず、友人は「そんな貴重なもの、もらえるはずない」と苦笑いしていました。

妊産婦死亡率が急増

 キューバ保健省が発表したデータには、驚くべき数字が示されていました。2021年の妊産婦死亡率は出産10万例あたり176・6人(日本は2・5人)と、19年の37・4人から急増。さらに乳児死亡率は1000人あたり7・6人(日本1・7人)。長年5人未満を維持してきたキューバにとって、心を痛める数字です。
 もともとキューバでは布おむつの生地や石鹸、哺乳瓶、ベビーオイルを入れたマタニティーバッグが配布されていました。普段は妊娠7カ月から産後1年の間に受け取れますが、その間に物資がなければ権利を失います。出産後、ナプキンの代わりにガーゼやコットンさえ病院で与えられなかった友人。「想像してみて。出産後に拭くものがなく、血まみれで過ごさなければならなかったことを」。
 医学部で学んでいた時、右も左も分からない私に当たり前のように手を差し伸べてくれたキューバの人たち。諦めの表情をみせる彼らと日本で恵まれた生活を送っていた私との間にある溝。何か行動しなくては…。そこで思いたったのが、周産期を迎える妊婦さんにマタニティーセットを届けるプロジェクトでした。

42人の妊婦に届ける

 何もかも初めての挑戦。大量には送れないから、どこか一つの街に届けるのはどうだろう。「首都ハバナにないものは、地方にあるはずがない」。そう考えた私は、知り合いが住むキューバ最南東のバラコア市を候補にしました。
 バラコア市には「マタニティーホーム」が一カ所あります。安全な妊娠・出産・産後ケアに特化した医療を提供し看護師が常駐。在宅と産婦人科病院をつなぐ施設で、病院から遠方に住む妊婦や合併症を抱えた妊婦が入居しており、そこに届けることにしました。
 マタニティーセットは40人を目標に昨夏に寄付金の募集を開始、約90万円を集めることができました。体験談を語ってくれた友人に必要物資について相談、妊婦一人に対し、医薬品(解熱鎮痛剤と抗生物質)、サプリメント(鉄、ビタミンなど)、哺乳瓶2本、布おむつ10枚、おむつカバー3枚、布ナプキン5枚などを届けることにしました。   
 物資の購入先も工夫。医薬品は現地で使われるスペイン語で用途が記載されており、キューバにも渡航しやすいボリビアで購入しました。その他の物資は日本で手に入れ、さらに日本人の母親の協力もあり、「アベノマスク」を再利用した手づくりの布ナプキンも用意しました。
 途中で盗難に遭うなどハプニングもありましたが、もともと楽観的な性格。「どうにかなる、どうにかする」とワクワク・ドキドキしながら、手伝ってくれた大学生と支援物資を携え、今年2月にバラコア市を訪ねました。
 「日本の人たちと私たちの大きな想いが詰まっているのよ」と、マタニティーホームの関係者が妊婦に伝え、ホームにいた42人一人一人に手渡しました。その後、支援物資を受け取った妊婦さんが無事に出産したと嬉しい知らせが。「布おむつやナプキンが大変役立ったと喜んでいたよ」と聞きました。
 初めて持参したマタニティーセットは40人分。不十分ながらも、分け合って皆に平等に届くように分配してくれました。キューバの窮状の全てを解決する術は持ち合わせていませんが、多くの人の知恵や力をお借りしつつ、今後も身の丈でできることを考えて行動していこうと思います。


マタニティーセットの寄付金募集

 新田さんは引き続き寄付金を募集しています。マタニティーセットは確実に妊婦に届けるため手渡しを原則としており、次の配布時期は未定です。

銀行名  北洋銀行 
支店名  千歳中央支店(店番318)
口座番号 普通4587810
口座名義 ウミミル

寄付金の目安
2000円で哺乳瓶1本、布おむつ10m、出産後用ナプキン75枚、または抗生物質錠剤40錠
3000円で医薬品セット(抗生物質錠剤40錠、シロップ1本、解熱鎮痛剤100錠、液状2本)
5000円で医薬品セットと哺乳瓶1本、布おむつ10m、出産後用ナプキン75枚


新田真矢子(にった・まやこ)
大阪府出身。発展途上国や難民キャンプ等の現場で働きたいと医師を志す。2013年にキューバのハバナ大学医学部入学、19年 卒業。今年4月からウルグアイで臨床研修を始める

いつでも元気 2023.7 No.380