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いつでも元気

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ハーフタイム

増田剛(全日本民医連会長)

むせび泣いた母の姿

 新しい戦前が妙に現実味を帯びてきました。正直気分が悪いです。
 私は戦後生まれで、かつ憲法9条を持つこの国で育ちました。「二度と戦争は起こさせない」という国民運動があったおかげで、大人になるまで戦争のことを考えなくてもよい生活を過ごしてきました。
 それが第二次安倍政権以降、空気が大きく変わったと感じます。2013年の特定秘密保護法と国家安全保障会議設置法に始まり、14年には集団的自衛権の行使を容認する閣議決定、さらに15年の安保法制で「専守防衛」は有名無実化。海外で戦争できる国づくりが着々と進んできました。
 そして昨年末の安保三文書改定により、「敵基地攻撃能力」を持つための“異次元”の大軍拡が進行中です。
 私の手元に『15歳が受け継ぐ平和のバトン』という冊子があります。娘が中学3年の時に、学年全員で「祖父母の戦争体験」を聞き取った内容をまとめたものです。
 娘は私の父にインタビューし、「兄の死に誓ったもの」という題名で冊子に収められています。1933年生まれの父は、農家の7人兄姉の末っ子でした。1943年7月、長兄の戦死公報が届いた時の様子が衝撃的です。
 一つ上の兄と一緒に号泣する私の父に対して、母親が叱りつけます。「静かにしなさい、隣組に聞こえたらどうするの。だいたい何を泣くことがあるの、あの子はお国のために死んだんだ。立派に尽くしたのだ。こんな名誉があるか。泣くなんて非国民だ」。
 気丈に振る舞っていた母親がその日の深夜、蚊帳の中で布団をかぶり、声を押し殺してむせび泣く姿を偶然見かけたのです。言いようのない理不尽さを感じた父が戦後、社会変革の道に傾倒していく様子も記されています。
 このインタビューは父のこんな言葉で締めくくられています。「たとえどんな理由があっても、二度と戦争を繰り返してはならない。話し合いで解決する、それが大切だ。今の平和な日本はアジアの人の犠牲の上に成り立っている。それを日本の勝手な理由で再び戦争の道を歩むなど許されない。メディアは必ずしも、正しいことを言っているとは限らない。都合の悪いことは国民に隠して、気付いたら第三次世界大戦、なんてことになってからでは遅いのだ」。
 『15歳が受け継ぐ平和のバトン』は、約20年前に編集された890ページの大著ですが、“新しい戦前”に直面する今の私たちの胸に刺さってくる内容です。
 やっぱり、戦争だけはダメだ。

いつでも元気 2023.7 No.380