まちのチカラ 広島県安芸太田町 五感で癒やす森林セラピーのまち
文・写真 橋爪明日香(フォトライター)
広島県北西部、西中国山地の中央に位置する安芸太田町。
三段峡をはじめ、西中国山地を代表する数多くの景勝地が魅力。
漬物を焼いて食する文化や、戸河内刳物の伝統技術などを今に伝えます。
森林セラピーでも人々を癒やす、自然豊かな町を訪ねました。
※感染対策をしたうえで取材しています
広島市中心部から車で約1時間。中国自動車道戸河内インターチェンジを降りると、赤い屋根瓦の家々が特徴的な安芸太田町に到着しました。町名の由来にもなった太田川の上流域に沿って町全体が形成されています。
まず向かったのは、西日本有数の峡谷凝縮美が楽しめる特別名勝三段峡。西中国山地国定公園内にある全長約16㎞にも及ぶ大峡谷で、見どころがたくさん。その雄大さを歩いて楽しむこともできますが、お勧めは渡舟に乗って大岩壁の中を進み、三段峡の深部へ。
舟でしか行くことのできない幻想的な空間と、エメラルドグリーンの水面に冒険心がくすぐられます。広島県が誇る秘境の荘厳さに、あなたも浸ってみてください。
五感を使って森林浴
町には三段峡(黒淵)、三段峡(猿飛)、深入山、恐羅漢、龍頭峡の5つの森林セラピーロードがあります。森林セラピーとは、森の中の散策やレクリエーションを通して心と体を癒やし、医学的にも健康増進や病気の予防効果が認められた森林浴のことです。
今回は、森林セラピーガイドの太田春夫さんに「日本秘境百選」にも選ばれた龍頭峡コースを案内してもらいました。
「自然の景色や匂いを、五感を使って感じてみてください」と、癒やしの雰囲気を醸し出しながらニコッと微笑む太田さんの足取りは、想像以上にゆ?っくり。ゆるやかなコース上には季節の花が咲き、野鳥のさえずりが聞こえます。
入り口から300m歩いた所にある「二段滝」、さらに100m先の「奥の滝」で大きく深呼吸。最後はハンモックでお昼寝です。いつもよりゆっくり過ごす森時間に、身も心もリラックス。
セラピーコースの所要時間は2時間半~4時間で、目的や体力に合わせて選べます。日々のストレスに疲れたら、森林セラピーでリフレッシュしてはいかがでしょうか。
B級グルメ漬物やきそば
日本最南端の豪雪地帯といわれる町には、漬物を焼いて食べるという面白い食文化があります。昔から冬の保存食だった漬物が寒さで凍ってしまうため、解凍の目的で焼いたことが始まりではないかといわれています。そんな豪雪地帯ならではの食文化を残したいと開発されたのが、B級グルメの漬物やきそばです。
その味を確かめようと訪れたのは、道の駅来夢とごうち2階の和風レストラン。県外からわざわざ食べにくるファンもいる人気メニューのため、数量限定で提供しています。
熱々の鉄板に載ってジュージューと音を立てながら出てきた漬物やきそば。シャキシャキの白菜漬けを小さく切って焼いたあと、さらに焼きそばの麺と一緒に炒めています。
「漬物独特の香りをごま油で飛ばさないと、県外から来る方には食べにくいので、手間をかけちょるんですよ」と、店長の梅田真悟さん。香ばしい漬物の風味と焼きそばのコラボレーションに、卵の黄身を絡めていただく至福のひととき。どこか懐かしいような温もりを感じながら箸が進み、一口食べるごとに虜になってしまいます。
手造りおたまじゃくし
四方を山に囲まれた町は、古くから良質な木材が採れました。そんな山の木をすべて手作業でくりぬいて作る生活道具で、戸河内刳物と呼ばれる伝統工芸が、江戸時代から200年続いています。のどかな里山の風景の中にある川沿いの工房「横畠工芸」を訪ねました。
カンカンと木をくりぬく音が響く工房で迎えてくれたのは、職人歴70年の横畠文夫さんご夫婦。職人というと気難しいイメージがあるかもしれませんが、お二人の優しい笑顔に実家に帰ってきたような親しみを覚えました。
「使うことによって家族の皆さんの幸せが浮いてくるように、上がるように」と、横畠さんが作る代表的なものは「浮上お玉」と呼ばれる木しゃくし。水に沈まない素材を使っているため、うっかり鍋に落としても浮きます。機械を使わずカンナやノミだけを使用。丸太を切断して皮を落とすところから、16の工程を経てしゃくしが生まれます。
時代を越えて多くの人に愛され続ける伝統工芸品は、どれも一点ものです。そのいとおしさとぬくもりのある使い心地を、ぜひ手に取って感じてください。
他にも、広島県の最高峰恐羅漢山など西中国山地を代表する数多くの景勝地が魅力の安芸太田町。四季を通じて満喫できる自然豊かな町で、日常の喧騒を忘れて癒やされてください。
■次回は長崎県小値賀町です。
まちのデータ
人口
5634人(3月末現在)
おすすめの特産品
柿(祇園坊)、橡餅、三段峡豆腐
地酒、工芸品
アクセス
広島駅から道の駅来夢とごうちまで車で約1時間。電車とバスで約2時間
問い合わせ先
一般社団法人 地域商社あきおおた
0826-28-1800
いつでも元気 2023.6 No.379