巨大ポストで憲法守る
文・新井健治(編集部) 写真・酒井猛
6月に創立70年を迎える全日本民医連。
その綱領には「憲法の理念を高く掲げ」と書いてあります。
「戦争をしない」と決めた現憲法を守るのも、民医連の大切な活動のひとつ。
東信医療生協(長野県上田市)は巨大ポストを作製し、憲法改悪を許さない活動に旺盛に取り組んでいます。
東信医療生協の上田生協診療所。玄関を入って受付に向かう途中で、真っ赤な巨大ポストが出迎えてくれました。「憲法改悪を許さない全国署名」の投函用で、職員の髙見澤伸也さんの手作り。
髙見澤さんは診療所通所リハビリテーションの介護主任で、以前は保育園で保育士をしていました。保育園勤務の経験から物を作るのが好きで、ポストも小学3年生の長女と一緒に作製。「ちょうど長女が生まれた頃に医療生協に就職しました。『お父さんはこんな所で働いているんだよ』と胸を張って言える職場にしたい。子どもたちが安心して暮らせるように、平和を守りたい」と言います。
ポストの装飾は診療所の看護師が担当し、12月はクリスマス、年末年始はお正月の飾り付け。そして2月は、職員全員に呼びかけて手書きのメッセージカードを書いてもらい、ポストに貼り付けました。
「患者さんの目を引くよう工夫しています」と話すのは、外来看護主任の齊藤友子さん。「平和運動は一部の職員に偏りがちだったため、多くの人が主体的に取り組めるように職員の思いをメッセージカードに書くようにしました」と振り返ります。
憲法かるたも募集
東信医療生協は昨年3月から全国署名を開始。今年3月末で2337筆が集まり、上田市の人口(約1万5000人)の1%を上回りました。昨年7月の参議院選挙をめどに集め始めましたが、その参院選で改憲勢力が3分の2以上の議席を確保。この事態に危機感を抱き、巨大ポストを作って改めて署名活動を強化しました。機関紙「千曲川のにじ」に1万1000枚を同封し、組合員にも幅広く呼びかけています。
「受付の手前にあるので効果は抜群。ポストができてから、署名数も増えています」と話すのは診療所事務長の中村靖さん。
こうした活動を楽しく続けようと、昨年10~12月には職員対象に「憲法かるた」の読み札を募集。中村さんは「運動の主体者になってもらおうと、あえて職員対象にこだわりました」と語ります。
128作品の応募のうち46作品をポスト脇の壁に掲示。選考の結果、理事長賞に「(な)ない袖は振れぬと社会保障出し渋り 手厚く盛り込む防衛費」が選ばれました。
署名開始と同時に、毎週火曜日午後5時10分から30分間、診療所近くの交差点に立つスタンディング行動も開始。「軍拡反対」「ウクライナ侵攻やめよ」など、情勢に合わせたプラスターを掲げ、冬も寒風に耐えながら立ち続けました。3月までで34回行い、職員229人が参加しています。
経営と同時再建
東信医療生協は過大な設備投資の影響で、2019年に経営破綻状態に。全日本民医連の指導も受けて再建に取り組み、赤字体質からの脱却を果たしました。
東信医療生協専務の藤沢薫さんは「経営が厳しくなると、民医連らしい医療や介護が難しくなり、同時に社会保障や平和を守る運動も弱くなりました」と振り返ります。
経営危機のさなかには退職する職員もいました。「ここに踏みとどまってくれた職員には、医療生協ならではのやりがいが必要。地域住民や組合員の期待にこたえるためにも、民医連らしい活動と経営を同時に再建する必要がありました」と言います。
こうした活動に、診療所の所長が積極的にかかわっているのも特徴です。訪問診療が終わってから、スタンディングに駆けつける松澤伸洋所長は「日本が再び危険な方向へ向かう可能性が高くなってきたからこそ、憲法を守ることを訴えていく必要があります」と強調します。
東信医療生協は3診療所と5介護事業所を運営、医療と介護の両面から住民の健康を守っています。「地域で安心して住み続けられるように、住民の方々の生活を支えてきました。健康とともに平和や人権を守るからこそ、私たちがここで働く意味があります」と松澤所長。
看護主任の齊藤さんは「ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、憲法9条では日本を守れないと考える人が増えたことに危機感を持っています。武器では平和は守れない。小さな声かもしれないが、外交努力こそ重要であることを意志表示していきたい」と話します。
東信医療生協は3月から、全日本民医連が呼びかけた新たな署名「平和、いのち、くらしを壊す大軍拡、大増税に反対する請願署名」にも取り組んでいます。
東信医療生協 組合員数約1万6000人。3診療所5介護事業所を運営。職員数は常勤換算で約105人。
2019年に経営破綻状態になり、有床診療所(19床)の上田生協診療所を無床に転換した
いつでも元気 2023.5 No.378