ハーフタイム
増田剛(全日本民医連会長)
人権としての気候正義
1月24日、『原子力科学者会報』の研究者が、世界終末時計の針が残り100秒から90秒に悪化したと発表しました。過去最悪の事態です。元々この時計は、核戦争の危機を想定して1947年から始まったもの。近年では気候危機や世界的な災害を引き起こす人為的脅威も考慮しています。
地球温暖化による氷床や永久凍土の融解、熱帯雨林の干ばつ、サンゴ礁の死滅、広範囲の森林火災、大雨による洪水や土砂崩れなど、後戻りできない「Climate tipping points」(気候の転換点)が顕在化してきました。
2021年8月、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」と、現在の惨状を作り出したのは人類だと断じ、その解決を国際社会に迫りました。
この“気候危機”に挑む国連気候変動枠組条約締約国会議(COP27)が昨年11月、エジプトで開催されました。テーマは「損失と損害」。この年の夏、国土の3分の1が冠水し、1700人以上の死者、300億ドルを超える損失を被ったパキスタンの首相は、「(自国の)二酸化炭素排出は非常に少ないにもかかわらず、破滅的な洪水が起き犠牲になった。これは人災だ」と述べました。まさに“気候正義”の視点です。
「先進国が化石燃料を使い放題にして温暖化を引き起こし、その被害は相対的にインフラが遅れている途上国に降り掛かる」「温暖化の原因に直接的に関与していない若者が未来にわたってそのツケを払わされる」。これらは“不正義”だという主張です。
会議に先立ち、世界250以上の医学系ジャーナルが共同社説「アフリカと世界に必要な緊急行動」を発表し、「気候危機に不釣り合いに苦しんできた」「アフリカと脆弱な国々への支援を強化しなければならない」と訴えました。
会議当日は、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、アメリカなどの首脳が問題に挑む決意を述べました。残念ながら岸田首相の姿はなく、今年もまた不名誉な「化石賞」※ を受賞しました。
デモが禁止されているエジプトでの開催でしたが、特別スペースで行われた集会では、参加者が「No Climate Justice Without Human Rights(人権なくして気候正義なし)」と訴えている様子が、世界に配信されました。
終末時計の針を戻すためには、「人権」の視点で気候問題を捉えることが必須です。そして、そのことを理解しようとしない政治家には退場していただくしかないと思います。
※化石賞
環境NGO「気候行動ネットワーク」が、気候変動対策に消極的な国に与える賞。
日本は3年連続で受賞している
いつでも元気 2023.5 No.378