ハーフタイム
増田剛(全日本民医連会長)
若い皆さんとともに
新入職員の皆さん、民医連へようこそ。皆さんの門出をお祝いするとともに、未来を担う方々だからこそ、少し深刻な話もしなければなりません。
昨年末から、世の中は一気に“戦前”ムードになりました。社会保障を目の敵にして、高齢化による自然増すら削減してきた政府が、5年間で43兆円という掟破りの防衛費(軍事費)を決定しました。いま、この国は大きな岐路に立っています。
「ウクライナみたいになりたくなかったら軍備拡大は当然」といったメディアに影響され、「増税は嫌だが、軍拡は必要では」と考える国民も少なくありません。
こうした声に対する私の疑問は単純です。「日本を軍事力で守ることができるのか?」─。
敵基地攻撃能力を備え、「もし手を出そうとしたら、ただじゃおかないぞ」と近隣諸国を脅すことで、日本に対する攻撃を抑止するというのが政府の戦略です。
でも、恐らく相手国も同じことを考えます。「もっと強い武器を備えて、日本が手を出したら倍返ししてやろう」くらいのことは誰でも思いつくもの。こうして際限のない軍拡競争が起こり、気が付いたら大増税と社会保障の削減で国民の暮らしは真っ暗に。
どんなに軍備を整えても、何かの拍子で戦争が起きれば、小さな島国のあちこちで都市が破壊され風景は一変するでしょう。
かつての戦争のように、飛行機が飛んできて爆弾を落とすのではなく、数千km離れた場所から日常生活の舞台に直接、ミサイルが飛んでくる時代です。はじめの数発は撃ち落とせるかもしれません。しかし、これが何百発となれば、もう防御は無理でしょう。
軍事兵器が極度に高度化、強度化した現代において、狭い平地に大勢の人間が暮らすこの国を、軍事力で守ることなどできない─。これが原子爆弾で国土を焼かれた日本の最大の教訓です。
そのことを理解した先達たちが憲法9条を国是として確立したことで、日本は78年間、戦争に本格的に参戦することなくこれまで歩んで来られたのです。
日本だけでなく、海外にも憲法9条の価値を学び発展させようとしている人々がいます。「軍事力によらない平和の構築」という考え方は、国連憲章や2021年に発効した核兵器禁止条約の中にも力強く脈打っています。
新入職員の皆さんはこれから先、数多くの経験を重ね、学び成長するでしょう。こんな時代だからこそ、皆さんとともに冷静に考えてみたい。「軍事力で日本を守ることができるのですか」。
いつでも元気 2023.4 No.377