まちのチカラ 桜鉄道と美食のまち
文・写真 橋爪明日香(フォトライター)
石川県は奥能登の玄関口に位置する穴水町。
春は「能登さくら駅」が桜の名所です。
GWまで楽しめる能登かきなど四季折々の美食、ボラ待ちやぐらやキリコ祭りなど海の風景も魅力。
穏やかな穴水湾が育むまちを訪ねました。
※感染対策をしたうえで取材しています
羽田空港からのと里山空港(輪島市)まで1時間、空港から車に乗り換えてわずか10分で穴水町に到着しました。奥能登の玄関口として交通の便がよく、日本海側でありながら内浦になる穴水湾はとても穏やかです。まるで湖のような景色の中に、穴水らしさを感じるボラ待ちやぐらがたたずみます。
江戸時代から穴水湾に伝わる原始的なボラ漁は、7~8mの丸太やぐらを組み、その上から海底に張ったフクロ網を終日見張ります。ボラは音に敏感なので静かに待ち、光の反射する海面を通して魚影を見つけなければなりません。ボラの群れが網に入ると、たぐり上げて獲るというのんびりした漁法です。
天文学者パーシヴァル・ローエルが著書『NOTO』(十月社、現在は絶版)の中で、「怪鳥ロックの巣のようだ」と表現したボラ待ちやぐら。最盛期には40基を超えましたが、1996年を最後にこの漁法は行われなくなりました。
現在は、国道249号沿いの根木ポケットパークと中居湾ふれあいパークでやぐらを見ることができます。きらめく海面に似合うやぐらの光景は、時間を忘れていつまでも眺めていたくなります。
桜と鉄道と海
能登地方では、3月に入ると春を告げる魚「いさざ」漁が解禁となります。日照時間が長くなり海水温が上がると、いさざが産卵のために河川を遡上。生きたまま食べる踊り食いが有名です。
「この頃になると、全国から『今年の桜の開花時期はいつですか?』というお問い合わせが非常に多くなるんですよ」と穴水町観光交流課の山下歩さん。観光客のお目当ては、町の短い春の風物詩として知られる能登鹿島駅(のと鉄道)の桜トンネルです。
のと鉄道は海沿いを走る路線。桜と鉄道と海の3つが同時に撮れる景色が全国的にも珍しいと、カメラマンにも人気のスポットです。緩くカーブしたホームに沿って、桜の大樹が両側から枝を伸ばし薄桃色の花が咲くと、列車が桜のトンネルを抜けて行くように見えます。
能登鹿島駅は「能登さくら駅」という愛称で呼ばれ、能登半島屈指の桜の名所。春が過ぎても、夏は新緑、秋は紅葉と楽しませてくれます。
春まで楽しめる能登かき
町では、四季折々の味覚を楽しめるまいもんまつりが大人気。能登の「まいもん」(うまいもの)を求めて多くの人々が訪れます。春はいさざ、夏はさざえ、秋は牛、冬は牡蠣と、季節に応じた食のまつりがあります。
一番人気は牡蠣。もともと町へ牡蠣を食べに訪れるのが北陸三県の人たちの楽しみでしたが、次第に全国の食通にも知られるように。一般的には冬が旬ですが、穴水町の牡蠣は実入りが遅く桜の時期に旬となり、5月上旬までおいしくいただけます。
牡蠣を味わおうと訪れたのは、元力士の永尾明光さんが妻の光子さんと二人三脚で営む「ちゃんこ鍋、一品料理 力」。客が自ら炭火に乗せる焼き牡蠣と、カキフライや牡蠣ご飯のフルコースです。和気あいあいと炭火を囲んで、シュッと口を開ける生きのいい牡蠣を頬張るのは極上のひととき。
能登かきは小粒ですが、うま味が濃縮された肉厚の一品。永尾さんの「愛情がふりかかってますよ」の一声で、より一層おいしさが深まりました。ぜひご賞味ください。
キリコ 沖波大漁祭り
町の各集落では、夏になると盛大な祭りが次々と催されます。武者行列や灯籠流し、能登名物のキリコを使った勇壮な祭りもあります。キリコとは、みこしのような担ぎ棒のついた巨大な切子灯籠(御神灯)のこと。5基のキリコが海中で豪快に暴れる沖波大漁祭りが行われる沖波地区を訪ねました。
「みんな祭り好きでお盆になると帰ってくるんですよ。すっかり担ぎ手が少なくなっているので助かります」と語るのは、沖波地区区長の浜野栄治さん。沖波大漁祭りは海の安全と大漁を祈って、8月14~15日に開催されます。
1日目はキリコが鐘や太鼓のはやしに乗って町中を練り歩きながら恵比寿神社に向かいます。2日目は海中にキリコを担ぎ込み、勇ましく暴れ回ります。夏空のもと、能登の青い海と伝統を堪能できることでしょう。
ほかにも、キラキラ光る海を見ながら潮騒の道やさとりの道の散策も楽しみ。能登長寿大仏の園内では、森林浴から海岸散策までお勧めです。穏やかな日差しと海が、心を癒やし幸せな気分にさせてくれます。
■次回は栃木県壬生町です。
まちのデータ
人口
7574人(2022年12月31日現在)
おすすめの特産品
能登かき、ナマコ、もずく、能登ワイン
アクセス
東京・羽田空港からのと里山空港まで飛行機で1時間、空港から穴水町役場まで車で約10分
問い合わせ先
穴水町観光交流課
0768-52-3790
いつでも元気 2023.4 No.377