まちのチカラ
旧校舎群と近江商人のまち
文・写真 橋爪明日香(フォトライター)
琵琶湖東部の平野に位置する豊郷町。
町を縦断する中山道には近江商人の活気が今も息づき、豊郷小学校旧校舎群などの文化遺産を現在に残します。
魅力がぎゅっと詰まった滋賀県一小さな町を訪ねました。
※感染対策をしたうえで取材しています
彦根駅から車で約20分、中山道を南下すると豊郷町に到着しました。塀の内側に松の木が立ち往時の面影を残す家並みが続き、旧街道の雰囲気を醸し出します。まずは近江鉄道豊郷駅をスタートに、ボランティアガイド「扇会」の澤好成さんに中山道を歩いて案内してもらいました。
多くの近江商人を輩出した町には、中山道沿いにゆかりの施設があります。江戸時代に廻船業を営んだ藤野喜兵衛喜昌の邸宅豊会館(又十屋敷)、商業の礎を築いた豪商・薩摩治兵衛を中心に偉大な先人の業績を紹介する先人を偲ぶ館など軌跡をたどることができます。
大手商社の伊藤忠・丸紅の創設者である初代伊藤忠兵衛の本家が公開された伊藤忠兵衛記念館では、洋式の帳簿類や愛用のステッキなど貴重な品々が展示されています。
「忠兵衛さんの素晴らしい生き様がそのまま残っています。ものすごう人材育成に精を出して人を育ててはりますわ」と語るのは、記念館を運営する公益財団法人豊郷済美会の桂田繁常務理事。本家では初代忠兵衛の夫人・八重が中心となって新入店員の教育を行いました。
屋敷に一歩入ると、活気ある当時の暮らしぶりがうかがえます。全国各地に進出した近江商人のロマンに思いをはせてみるのもいいでしょう。
白亜の教育殿堂
次は町のランドマーク的建築物である豊郷小学校旧校舎群を訪ねました。国の登録有形文化財の旧校舎群は、町出身で丸紅商店の専務だった古川鉄治郎が寄贈。白鷺が羽を広げたような洋風建築の美しい校舎で、米国人建築家ウィリアム・メレル・ヴォーリズの設計により1937年に完成しました。
当時としては珍しい鉄筋コンクリートの校舎で、約4万平方メートルの敷地内にはプールや講堂、独立した図書館を備え、水洗トイレ、集中暖房設備、内線電話など最先端の設備を完備。「東洋一の小学校」「白亜の教育殿堂」として名を馳せました。特別見学案内ツアーに申し込むと、通常は公開していない理科室や貴賓室などにも入れます。
また、2009年から放送されたアニメ「けいおん!」の舞台といわれ一躍有名になり、海外からもアニメファンが訪れる人気スポットに。校舎の一つ一つの造りに感銘を受けます。
とよ坊かぼちゃん
町の特産品といえば、とよ坊かぼちゃんから生まれた「とよさとプリン」「とよさとパンどら」です。開発を行ったとよさと特産物振興協議会を訪ねました。
とよ坊かぼちゃんは大きさが約400~500gと手のひらサイズのかぼちゃで、栄養価が高く強い甘みが特徴。2000年に町の特産品として試作したのが始まりです。
農薬や化学肥料をできるだけ使わず、琵琶湖をはじめ環境への負荷を軽減する技術で栽培。鮮やかなオレンジ色の果肉が食欲をそそります。
収穫は夏ですが、旬の美味しさを年中お届けできるようにと、食べやすいペースト状にしてプリンとどら焼きにしました。ホクホクとして自然な甘みが凝縮され素朴な優しさを感じる味わい。子どもからご年配の方までお勧めです。
江州音頭発祥の地
町発祥の江州音頭は、地域の人々が輪となり一つになることができる町民の誇りです。毎年8月17日(旧暦7月17日)に千樹寺で「観音盆」として行われます。400年以上にわたり親しまれており、発端は戦国時代にさかのぼります。
永禄11年(1568年)に織田信長の兵火で千樹寺は焼失しますが、18年後に藤野太郎右衛門常実が浄財を投じて再建。その落慶法要の余興として、住職が参拝客を集め経文の二、三句をおもしろく繰り返して手振り足踏み踊りました。すると見物人が我も我もと輪に加わり、ついに夜が更けるのも忘れて踊り明かしたといいます。
これが江州音頭の始まりとされており、現在まで改良と発展を続け「絵日傘踊り」「扇踊り」が無形文化財として保存・継承されています。
「月2回の定例稽古では、思いっきり踊りますよ。江州音頭を残さなあかんという使命感と、本当に楽しい気持ちと両方があります」と笑顔で語るのは、豊郷町江州音頭保存会会長の藤野惠津子さん。57年前の発足当時から踊り続ける大ベテランです。藤野さんの一声で、花が咲いたようにパッと華やかな唄と踊りが始まりました。
歴史と文化が息づく近江商人のまち、豊郷町。春を運ぶそよ風とともに、小さな町内を歩いてみてはいかがでしょうか。
■次回は石川県穴水町です。
まちのデータ
人口
7207人(2022年12月31日現在)
おすすめの特産品
とよ坊かぼちゃん、近江牛
近江米(コシヒカリ)、地酒
アクセス
京都駅から豊郷町役場まで車で約110分。
豊郷駅までJRと近江鉄道で約90分
問い合わせ先
豊郷町観光協会
0749-35-3737
いつでも元気 2023.3 No.376