青の森 緑の海
クリストファー・ノーランというイギリスの映画監督がいる。彼の作品は必ず観ているが、7月公開予定の新作は「オッペンハイマー」。“原爆の父”だ。
写真の動物はフイリマングース。113年前、バングラデシュから沖縄へ連れて来られた。目的は「サトウキビ畑の“害獣”であるハブとネズミを減らすため」だったが、次第に分布域を拡げ、北部のやんばるエリアへも侵入した。
彼らは雑食性なので、在来のネズミやヤンバルクイナなども激減してしまい、「特定外来生物」として駆除対象とされた。駆除が功を奏し、在来希少種の生息数は順調に回復しているが、マングースにとっては甚だ迷惑な話だ。彼らを持ちこんだのは、実は動物学者。当時は外来生物の脅威について、学者も理解が及ばなかったようだ。
この歴史にはもうひとつの見方があると思う。当時マングースが雑食であることは知られていたのに、気性も荒く毒もあるハブをわざわざ襲うのかということ。さらに沖縄島という狭い範囲で、この敏捷な動物を管理できると考えたのかという点。少し想像力を巡らせれば、問題があることは分かったのではないか。
今、世界中で核使用についての議論が起きている。限定的な核使用について、人類が一線を越えてしまうのではないかと危惧している。原爆投下後、オッペンハイマーは「物理学者は罪を知った」と語り、後年は水爆の開発に反対した。人類は神から大いなる力を授かっているはずだ。それは「パワー」ではない。「想像力=イマジン」だと思う。
【今泉真也/写真家】
1970年神奈川生まれ。中学の時、顔見知りのホームレス男性が同じ中学生に殺害されたことから「子どもにとっての自然の必要性」について考えるようになる。沖縄国際大学で沖縄戦聞き取り調査などを専攻後、一貫して沖縄と琉球弧から人と自然のいのちについて撮影を続ける。2020年には写真集『神人の祝う森』を発表。人間と自然のルーツを深く見つめた内容は高い評価を受けている。
いつでも元気 2023.3 No.376