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いつでも元気

いつでも元気

まちのチカラ 
湯治1200年の歴史にひたる

文・写真 牧野佳奈子(フォトライター)

湯気を上げる5号源泉、その奥が肘折ダム(積雪の場合は通行止めの可能性あり)

湯気を上げる5号源泉、その奥が肘折ダム(積雪の場合は通行止めの可能性あり)

 山形県のほぼ中央にある大蔵村。
 平安時代の807年に発見された村の肘折温泉は、今も全国各地から多くの人が訪れる湯治場です。
 “旅行”というより“治療”の満足感をじっくり味わえる身体にやさしい温泉郷を訪ねました。

感染対策をしたうえで取材しています

 JR新庄駅から車で約45分、肘折温泉は出羽三山の主峰・月山の麓にひっそりとたたずんでいました。約1万年前の火山活動でできた直径2kmのカルデラ地形にあり、ゆったりと流れる銅山川に沿って19軒の温泉旅館が立ち並びます。
 その先の肘折ダムの脇には、源泉がゴーゴーと音を立てて自噴する5号源泉があります。80℃の源泉には、皮膚表面の汚れを落とす炭酸水素ナトリウム(重曹)、血管拡張の機能がある炭酸ガス、皮膚に膜をつくって保護する塩化ナトリウム(食塩)が含まれています。この3つの成分がバランスよく溶け込んでいる泉質は全国でも珍しいとのこと。
 室町時代の1390年、信仰の山として知られる月山の登山道に肘折口ができると、体を清める目的で温泉を利用する人が増えました。ピークの1709年には、宿泊者が2週間で1万2000人を超えたと記録されているとのこと。湯けむり越しに水面を眺めていると、当時のにぎわいが目に浮かぶようでした。

全身に大地のエネルギー

 肘折温泉には、今でも多くの人が全国各地から訪れます。そのうち半数が3泊以上の中長期滞在者。農作業などの身体的疲れ、病気、怪我を癒やす目的のほか、精神的なストレスを抱えた人も増えているとか。
 肘折温泉郷振興株式会社の木村裕吉代表にオススメの湯治方法を尋ねると、「理想は1週間の滞在で、初日は1~2回、徐々に回数を増やして1日5回以下の入浴が効果的です。2カ月間は体調が良い状態が続くので、3~4カ月に一度、湯治に通うのが一番ですね」。
 温泉の効能は「スパリエ・インストラクター」(温泉指南役)に認定された旅館や商店の人たちが詳しく教えてくれます。また年8回は、日本温泉気候物理医学会から認定された「温泉療法医」(温泉ドクター)に直接相談することも可能です。
 「肘折温泉の強みは治療効果が高いことです。コロナ禍で誰もが心身にストレスを抱えやすくなっているので、ぜひ連泊でゆっくり訪れてほしい」と木村さん。リピート客には湯の里ひじおり倶楽部のパスポートが発行され、全国約1300人の会員に仲間入り。全身にじんわり大地のエネルギーを染み込ませれば、元気回復間違いなしです。

愛らしい肘折こけし

 村の代表的な土産物といえば、伝統こけし11系統の一つに数えられている肘折こけしです。頭部が空洞で中に小豆が入っており、振るとカラカラと音が鳴るのが特徴です。
 村で唯一のこけし工人、鈴木征一さんを訪ねました。鈴木さんは26歳の時に奥山庫治氏に弟子入りし、32歳で独立。2019年には第61回全日本こけしコンクールで最高賞(内閣総理大臣賞)を受賞しています。
 経歴について尋ねると、「この辺は冬の仕事がないんですよ。それで師匠の手伝いをしているうちに『やらないか?』と声をかけられてね。でも、こけしの顔を描けるようになるまで10年かかりました」。
 もともとは子どもの玩具だったこけしですが、今では観賞用に集める愛好家が数多くいます。鈴木さんの元にも全国から様々なファンが訪れるとか。「長年やってると、同じように描いているつもりでも変わってくるんですね。だからこそ同じお客さんが何度も買ってくれる。ありがたいことです」と鈴木さん。
 工房の向かい側にある販売所に行くと、歴代の工人が制作した肘折こけしが棚一面にずらりと並べられていました。一体一体、どれひとつ同じ微笑みはありません。眺めているうちに、まるで工人とこけしの親子愛に包まれているような温かい感覚になりました。

納豆汁でほっこり

 村は積雪3m以上にもなる山形県内でも屈指の豪雪地。そんな時季に人々の胃を温めてくれるのは納豆汁です。納豆をすり鉢でつぶしてとろみをつけ、みそと酒かすになじませるのが特徴。具は地元で採れた山菜やきのこ、豆腐のほか、里芋の茎を乾燥させた「いもがら」を入れます。
 雪深い地域では早春に七草を揃えることができないため、干物や保存食をたっぷり入れた納豆汁を食べて、一年の無病息災を祈る習慣があるそうです。旅館ではもちろん、学校給食でも人気のメニュー。納豆のとろみで汁が冷めにくくなるため、一杯食べると体がいつまでもポカポカします。ぜひご賞味あれ。

雪景色に花火の大輪

 豪雪を楽しむイベントとして、冬の風物詩になっているのがおおくら雪ものがたり。イベントの目玉、身長10m以上の巨大雪だるま「おおくらくん」を一目見ようと、県内外から多くの人が訪れます。銀世界の中、おおくらくんの後方から大輪の花火が打ち上げられ、冬の澄んだ夜空を彩ります。今年は3月18日に開催される予定です。
 ほかにも大雪になればなるほど特典がもらえる「ドカ雪・大雪割キャンペーン」や肘折幻想雪回廊など、これまで負の資源だと思われていた雪を観光に生かす取り組みも。
 今年はじっくりと日本の冬を堪能してみてはいかがでしょうか。

■次回は滋賀県豊郷町です。

まちのデータ

人口
2955人(2022年11月1日現在)
おすすめの特産品
米、蕎麦、最上鴨、地酒、こけし
アクセス
東京駅から新庄駅まで新幹線で約3時間半、大蔵村役場まで車で約20分
問い合わせ先
大蔵村観光協会(肘折いでゆ館内)
0233-34-6106

いつでも元気 2023.2 No.375