けんこう教室
コロナ後遺症
コロナ感染後に症状が残ったり、新たに症状が出る「コロナ後遺症」が知られるようになってきました。
コロナ後遺症の症状や治療、周囲ができるサポートなどについて、「コロナ後遺症外来」で診療する勤医協札幌病院の尾形和泰院長に聞きました。
新型コロナの感染拡大が始まった2019年末から3年が経とうとしています。日本の感染者数は、累計で2000万人を超えました。
当院では週2回、半日ずつコロナ後遺症外来を開いています。「コロナの療養期間が明けても、症状が治まらない」と訴える患者さんが多くいらっしゃいます。予約がすぐに埋まってしまい、受診をお断りせざるをえないこともあります。
WHO(世界保健機関)はコロナ後遺症について、「コロナ感染後も2カ月以上続き、他の疾患として説明がつかないもの」などと定義しています。
主な症状
コロナ後遺症の主な症状を資料にまとめました。倦怠感やせき、嗅覚・味覚障害や脱毛、睡眠障害など、症状は多岐にわたります。記憶障害や集中力低下など、「ブレインフォグ」(脳の霧)と呼ばれる症状もあります。
厚労省の「罹患後症状のマネジメント」には、コロナで入院した1066人の追跡調査が紹介されています。それによると約3割の方が、診断から1年後でも何らかの症状を抱えていました。正確な統計はありませんが、感染者全体で見ると約1~2割の方にコロナ後遺症の症状があると言われています。
第7波はこれまでよりさらに大きな感染拡大になりました。感染者の増加にともないコロナ後遺症の患者さんは増えていますし、多様な症状が目につくようにもなりました。
感染時には無症状や軽症だった方にも、コロナ後遺症の症状が出ています。報道などでは若者や働き盛り世代の方が目立ちますが、高齢者は後遺症を自覚していなかったり、施設などに入っていて受診が難しい方もいるかもしれません。私が気になっているのは子どものコロナ後遺症で、本人も周りの大人も気づかないまま、受診や診断に結びつかない子どもがかなり多くいるのではないかと心配しています。
原因と治療
コロナ後遺症の原因について研究が進んでいますが、詳しくは分かっていません。
微量な残存ウイルスが長期にわたって炎症を起こしているという説や、免疫調節機能の暴走による炎症、ウイルスに感染した肺などの組織の障害、感染前から体内に存在したウイルスの活性化など、さまざまな説があります。コロナ感染で体内にできた血栓(血のかたまり)が、脳やさまざまな臓器に血流の障害を起こしているという説もあります。また原因は一つではなく、これらの要素の組み合わせで後遺症の症状が出ているとも考えられます。
原因が分からないため、治療は主に対症療法です。漢方や抗うつ剤などを使って症状を和らげたり、海外の動向にも注目して試行錯誤しています。イタリアでは7月、ビタミンCとLアルギニンのサプリメントで良くなったという研究が報告されました。当時は専門家による査読(チェック)前の論文でしたが、参考にして治療に役立てています。
コロナ感染に伴うさまざまな症状から身体を快復させていくリハビリに関しては、WHOが出したリハビリガイドを私が翻訳して活用しています(次ページ別項)。症状に応じて、快復に向かうための自己管理の方法が具体的に書いてあります。感染直後の早めの段階から読めば、症状が長引く可能性を理解しつつ、見通しを持って安心して治療に取り組むことができます。
経済的な負担
コロナ禍は非正規労働者や女性など、社会的に弱い立場に置かれている人たちの生活に深刻な影響を与えました。コロナ後遺症は、コロナ禍で生活が苦しくなった人たちに、さらに大きなダメージを与える可能性があります。
コロナ感染時の医療費は原則として公費で賄われ、患者さんの自己負担はありません。コロナ後遺症はこれに該当しないため、患者さんに経済的な負担がかかります。
コロナ後遺症は専門医が臓器別の検査をしても、特に異常が見つからないことがほとんどです。症状の原因が分からないまま検査に多額の費用がかかったり、確かな治療法がないもとで治療が長引いたり、経済的な負担が心配事の一つです。
また非正規雇用の方の場合、快復に不可欠な職場のサポートを受けられないことが多くあります。私が外来で診た男性で、職場の産業医と連携してしっかり休養をとらせてもらい、じっくり2カ月ほどのプログラムで職場復帰できた方がいます。一方で、そのような支援を受けられず、退職せざるをえなかった方もいます。
周囲の人ができること
周囲の心理的なサポートも欠かせません。検査で異常がないからと、職場や家族に症状を理解してもらえないことが多くあります。患者さんはますます追い詰められて、症状を悪化させてしまいかねません。
コロナ後遺症というものがあることを理解して、患者さんを支えながら見守ってほしいと思います。民医連の職場や共同組織のみなさんにも、継続した取り組みをお願いしたいです。
国の制度などを活用して、患者さんが安心して療養できる体制につなげることも重要です。無料低額診療事業もその一つですし、労災認定による休業補償や障害補償などもあります。厚労省はコロナ後遺症の症状が続く場合は、労災を申請するようにアナウンスしています。
今後の課題としては高額な検査の費用補償や、コロナ後遺症を指定難病に入れるなど、国の制度を拡充する取り組みも必要だと思います。
いつでも元気 2022.12 No.373