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いつでも元気

いつでも元気

けんこう教室 
鼻呼吸でいきいき

 コロナ禍によるマスク生活が長引くなか、油断すると鼻ではなく口で呼吸していることはありませんか。
 口呼吸が身体に与える悪影響が指摘されるようになってきました。
 以前から鼻呼吸の重要性に気づき、2005年頃に有名な「あいうべ体操」を考案した今井一彰医師にお話を聞きました。

Q:あいうべ体操を考案したきっかけを教えてください。

福岡・みらいクリニック院長 内科医・東洋医学会漢方専門医 今井 一彰 (いまい・かずあき) 福岡・みらいクリニック院長。NPO法人日本病巣疾患研究会副理事長。メディカルエンターテイナーとして、一般向けから専門家向けまで幅広いジャンルの講演で全国をまわる。「あいうべ体操」「ゆびのば体操」の考案者で、マスコミやテレビ出演も多数。著書に『免疫力を上げ自律神経を整える舌トレ』『足腰が20歳若返る 足指のばし』(かんき出版)など。

福岡・みらいクリニック院長
内科医・東洋医学会漢方専門医
今井 一彰
(いまい・かずあき)
福岡・みらいクリニック院長。NPO法人日本病巣疾患研究会副理事長。メディカルエンターテイナーとして、一般向けから専門家向けまで幅広いジャンルの講演で全国をまわる。「あいうべ体操」「ゆびのば体操」の考案者で、マスコミやテレビ出演も多数。著書に『免疫力を上げ自律神経を整える舌トレ』『足腰が20歳若返る 足指のばし』(かんき出版)など。

A:関節リウマチ(関節炎)の患者さんを診察していた2000年頃、患者さんのお口の臭いが気になりました。「歯を磨いていますか?」と聞くと、みなさん歯は磨いているのです。
 歯を磨いているのに、なぜ臭いがするのか不思議でした。調べていくと関節リウマチの患者さんに歯周病の方が多く、しかも症状の度合いに相関関係があることが分かってきました。
 今でこそ口腔状態の悪化が、免疫の異常やさまざまな疾患につながることが解明されてきています。しかし、当時はそのような理解は広く共有されていませんでした。

Q:先生は口呼吸と免疫力低下の関連性に注目したのですね。

A:歯周病悪化の原因の1つに口呼吸があります。鼻ではなく口で呼吸すると、唾液の分泌が弱まり、口の中が乾いた状態になります。細菌が繁殖しやすくなり、歯周病のリスクが高まります。
 実はそれだけではありません。鼻呼吸であれば鼻毛や線毛(繊毛)の働きで異物を除去したり、吸い込んだ空気を加温・加湿して肺のほうへ送りこむことができます。それに対して口呼吸の場合、細菌やウイルスを含む汚れたままの空気が扁桃を直撃して、免疫力の低下などさまざまな不具合を引き起こすことになります(資料1)。

口呼吸とメンタルの関係

 口呼吸は疲労や倦怠感のほか、精神的な不調とも関連します。呼吸は自律神経と密接に関係しているからです。
 口呼吸は浅くて速い呼吸になりやすく、鼻呼吸は深くてゆっくりした呼吸になります。みなさん、緊張した時には深呼吸をしますよね。大きい呼吸で身体がリラックスすると、副交感神経がスムーズに働いて精神的にも落ち着くことができます。

Q:そこで鼻呼吸を促すために、あいうべ体操を考案したのですか。

A:鼻呼吸のためには、口の周りの筋肉を鍛え、口唇閉鎖力を高める必要があります。また口呼吸になる大きな原因として、舌の位置が下がっていることが考えられます。これを適正な位置、上あごにピッタリとついている状態に矯正する必要があり、あいうべ体操を考案しました。
 下のイラストを参考に、口を大げさに動かしてみてください。4つの動作を順番に繰り返します。声は出しても出さなくても構いません。「あ・い・う・べ」を1セットとして、1日30セットを目安に毎日続けると効果的です。
 単に口を動かすだけでなく、意識的に鼻で呼吸するのが重要なポイントです。しっかりと口を閉じて、舌の力をつけてください。
 あいうべ体操は、いつでもどこでもできる。道具を使う必要がありません。高齢の方でもお子さんでも誰にでもできるように、簡単な4つの文字だけを選びました。最後には「ベー」と舌に力を入れて伸ばし、舌が大切だと意識させる効果もあります。

Q:毎日続ける必要がありますか。

A:習慣化することが大切です。以前の調査で舌の位置が下がった状態にある人は、成人の約8割を占めました(資料2)。多くの方が自覚していないだけで、油断すると口呼吸になっている可能性があります。しかも加齢とともに舌の筋力は落ちていきますから、ますます口呼吸になるリスクが高まります。
 あいうべ体操によって、高齢者の嚥下機能が改善したケースもあります。喉周りに筋肉がついて、せき込むことが少なくなります。唾液が出ることで、咀嚼と嚥下がラクになるという方はたくさんいらっしゃいます。もし食事でむせるような場合は、食前にあいうべ体操を10セットやっていただくのも1つの方法です。

Q:コロナ禍のマスク生活で気になることはありますか。

A:マスクで息苦しいからといって、口呼吸はいけません。きちんと鼻呼吸することが大切です。マスクで飛沫は防げるかもしれませんが、マスクが鼻の代わりになることはありません。
 飛沫を浴びない環境だったら、マスクは外したほうがいいでしょう。私は特にお子さんたちのことが心配です。マスクの下で口をぽかんと開けた状態が続くと、アレルギー性鼻炎や喘息、虫歯の増加などにつながりかねません。成長期のお子さんが口の筋肉を使わないと、歯並びが悪くなることもあります。
 コロナの自粛生活で足腰が衰えたように、マスクで口周りの筋肉が衰えているかもしれません。改善のためには、一人ひとりが心がける必要があります。その第一歩として鼻呼吸を意識的に行うことをおすすめします。

認知症予防にも効果

 私が呼吸改善の専門家として出演したテレビ番組で、プロスキーヤーの三浦雄一郎さんの健康法「口開け舌出し体操」が紹介されていました。彼は70歳、75歳、80歳でエベレストに登頂した登山家でもあります。
 舌の出し入れは脳を活性化して、リンパの流れを良くします。これは脳に蓄積された老廃物を排出して、認知症予防にも効果があるのではないかと考えています。

いつでも元気 2022.11 No.372