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いつでも元気

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まちのチカラ 
“日本三大秘境”平家伝説の村 宮崎県 椎葉村

文・写真 橋爪明日香(フォトライター)

まるで仙人が住んでいるかのような仙人の棚田(椎葉村観光協会提供)

まるで仙人が住んでいるかのような仙人の棚田(椎葉村観光協会提供)

 宮崎県北西部、九州山地の中央に位置する椎葉村。
 平家落人伝説を伝える村で、焼畑や菜豆腐など現在も独自の習慣や伝統文化を継承しています。
 “日本三大秘境”とも呼ばれる、山と共生する村を訪ねました。

感染対策をしたうえで取材しています

 阿蘇くまもと空港から車で約2時間。山中のカーブが連続するひむか神話街道を進むと、日本三大秘境のひとつである椎葉村に到着しました。険しい山々がそびえ、壇ノ浦の戦い(1185年)で源氏に敗れた平家の落人たちが隠れ住んだという奥深い地です。現在も自然と寄り添うように民家が点在する様子は、神々しさを覚えます。
 まず最初に向かったのは、“椎葉のマチュピチュ”と注目を集める仙人の棚田が見られる絶景スポット大いちょう展望台です。耳川を挟んで対岸にある下松尾地区の棚田は、まるで空に浮かぶ天空都市ともいえるような美しさ。雲海もよく見られる場所で、圧巻の景色を目当てに遠方から訪れる人も少なくありません。
 「昔から人は山の中に暮らしとっちゃったろうなと思うと、椎葉って良いとこやなぁとつくづく思いますね」と、椎葉村観光協会の髙島清行さんが案内してくれました。江戸時代から150年かけてできた100枚の棚田は、狭い限られた土地を最大限に活用した先人たちの知恵の証しです。

彩り美しい菜豆腐

 山の暮らしは独特の食文化も生み出しました。原木椎茸栽培、ミツバチの養蜂、猪鹿狩りなどが受け継がれる中で、ひときわ目を楽しませてくれるのが菜豆腐です。
 豆腐の中に、秋から春にかけて生育する野沢菜によく似た村在来の「平家かぶ」を入れた料理。貴重なタンパク源である大豆を節約するために、家の周りの葉菜類を入れてかさ増しをしたことから生まれました。現在は、季節の野菜などを加えたものも作られています。昔は豆腐はごちそうだったので、祭りや結婚式、葬式などに使われました。
 かつてはどの家でも作っていましたが、手間がかかるので現在は椎葉村物産センター 平家本陣などで販売されています。併設の食堂では菜豆腐を食べることもでき、単品のほか一番人気の椎葉そば定食にも添えられています。
 菜豆腐は適当な大きさに切り、しょうゆや柚子こしょうなどをつけて食べます。食感は少し固めで、普通の豆腐とは一味も二味も違います。京料理を思わせるその上品さと山の実りの彩りは、平家落人伝説の名残りを感じさせます。

ツリーハウスの森

 村の中心部からさらに山奥へ進むこと40分。尾向地区に子どもから大人まで目を輝かせて遊べる場所があると聞き、ツリーハウスの森を訪ねました。
 村の観光協会長で設計会社を営む尾前一日出さんが、仲間たちと一緒にワイヤロープを滑車で滑り降りるジップラインやツリーハウスを作っています。娘の自由研究のテーマとして、庭に小さいツリーハウスを作ったのがきっかけでした。
 「子どもたちにここでしかできない自然体験を存分に楽しんでもらいたい。その子が将来、親になった時に椎葉がよかったなと帰ってきてもらいたい」と尾前さんは熱い思いを語ります。地区内の尾前集落の未来のために「尾前里山保全の会」が立ち上がり、“かちゃーり”(=尾前の言葉で助け合いの意味)の心でツリーハウスの森づくりが始まりました。
 現在、3軒目のツリーハウスは日本一高い28m。登るには覚悟と勇気と時間が必要です。ぜひ少年の心になって、挑戦してみてください。

循環型農法焼畑

 森林と農林業の調和が現在も維持されていると世界的に評価され、椎葉村を含む高千穂郷・椎葉山地域は2015年に世界農業遺産に認定されました。その立役者となったのが、椎葉村で縄文時代から絶えずに続けられている焼畑です。日本古来の農法を5000年前から守り継承してきた向山地区の椎葉勝さん一家に会いに行きました。
 焼畑は8月上旬、天気の良い乾燥した日を選び山の神にお神酒をあげて、「火入れの唱え言」を口にします。厳かな儀式とともに火入れをし、焼き払ったあとは地面がまだ燻っているところに種をまきます。
 1年目はそば、2年目にひえやあわ、3年目は小豆、4年目は大豆といった具合に輪作栽培。その後、約30年の休閑期間を設けて森林の力を回復させ、再び焼畑を行う循環的な農法です。
 「地面の熱が800度まで上がることで、10cm下の埋土種子が目覚めるんです。焼くことは森の再生、地域活性化、人間の心を入れ替えることでもあるんですよ」と、椎葉勝さんは次世代への継承を目指します。
 村では山の暮らしと深く結びついた夜神楽や民謡などが伝承されています。例年11月に行われる椎葉平家まつりも見所。1985年に平家の末裔「鶴富姫」と源氏の武将「那須大八郎」との悲恋物語を題材に始まった祭りですが、今年は台風14号の影響で中止になりました。
 ほかにもまだまだ見所がたくさんの椎葉村。ゆっくりと、ゆっくりと、命をつないでいく仕組みを教えてくれます。

■次回は千葉県多古町です。

まちのデータ

人口
2397人(8月1日現在)
おすすめの特産品
椎茸、干したけのこ、ぜんまい
菜豆腐、秘蜜(=蜂蜜)
アクセス
東京・羽田空港から阿蘇くまもと空港まで飛行機で1時間45分。空港から椎葉村役場まで車で約2時間
問い合わせ先
椎葉村観光協会 0982-67-3139
※9月の台風14号の被災状況については観光協会へ

いつでも元気 2022.11 No.372