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いつでも元気

いつでも元気

まちのチカラ 
地底湖と悠久の時が流れるまち

文・写真 橋爪明日香(フォトライター)

水深35mの第一地底湖(龍泉洞事務所提供)

 岩手県の中央部から東部に位置する岩泉町。
 標高約600mの宇霊羅山の地下には「龍泉洞」があり、ドラゴンブルーの地底湖が輝きます。
 日本初の恐竜化石モシリュウの発見や、炭鉱夫が愛したホルモン鍋でも知られています。
 深い森と清らかな水が育むまちを巡りました。

感染対策をしたうえで取材しています

 JR盛岡駅から車で約2時間。岩手県中央部から三陸海岸に至る岩泉町(992・36?)は、本州にある町村の中で最も広い面積を誇ります。町のほとんどが森林で、年間400万人分の酸素を供給することから「酸素一番の町」を宣言。まずは大きく深呼吸をして、町一番の観光スポット龍泉洞に向かいました。
 龍泉洞は日本三大鍾乳洞の一つで、洞内にすむコウモリと共に国の天然記念物に指定されています。宇霊羅山東麓の開口部から常時10℃前後の暗い洞内に入ると、そこはまさに異世界。ライトアップされた鍾乳石の造形美や足元を流れる地下水に冒険心がくすぐられます。
 龍が通ってできた道といわれる長細い百間廊下、足元からごう音を立てて流れる玉響の滝などを進み、最大の見どころである地底湖へ。“ドラゴンブルー”と称される地底湖は息をのむほど美しく、湖底まで透き通り青色に輝きます。
 「公開されていない第七地底湖の部分までイメージしながら、龍泉洞を楽しんでください」と龍泉洞事務所の佐々木裕所長が語るように、観光コースとして公開されているのは700m。洞窟の全長は5000m以上あると推定され、今なお調査が進められています。地球(ジオ)の神秘と出会う幻想世界を、ぜひ探検してみてください。

日本初の恐竜化石

 町の東端にある茂師海岸付近で、1978年に日本初の恐竜化石が発見され、地名からモシリュウと名付けられました。
 モシリュウの発見により「日本に恐竜はいなかった」という定説が覆り、日本各地で化石が発見されるようになりました。モシリュウは、約1億年前にいた体長20?25mの草食恐竜で、マメンチサウルスの仲間と考えられています。
 恐竜の軌跡を案内する岩泉観光ガイド協会の竹花敏明さんは、「恐竜はなぜ絶滅したのか、現在の地球はどうだろうかと考えてみてください」と問いかけながら、人類の未来や環境問題、いかにして尊い命を守るかを語り継ぎます。
 熊の鼻展望台付近の山道にあるモシリュウ化石産地や、モシリュウ化石のレプリカと三陸ジオパークの解説パネルを展示する三鉄駅の小さな博物館(岩泉小本駅に設置)などを巡れば、恐竜がいた太古のロマンを感じる旅となるでしょう。

炭鉱夫が愛したホルモン鍋

 続いてご紹介するのは、町を元気にするご当地グルメいわいずみ炭鉱ホルモン鍋です。町東部の小川地区にはかつて炭鉱があり、最盛期の1940年頃には1000人を超える鉱夫と家族が住んでいました。その中で遠く朝鮮半島から来た労働者によって伝えられたのがホルモン。そこに地元の豆腐やキャベツ、ネギなどの食材を加えてホルモン鍋が生まれました。
 今は炭鉱が閉鎖となり発祥の食堂も閉店しましたが、町内の各店で復活を遂げ発展しています。さらには約30人の地元ファンが「いわいずみ炭鉱ホルモン鍋発掘隊」を結成し、全国各地のイベントでホルモン鍋と岩泉町をPR。2019年にはまちおこしの祭典「B?1グランプリ」で8位入賞を果たしました。
 「ホルモン鍋でみんなを笑顔にしたい! イメージを覆す食べやすさなので、まずは一度食べてみてください」と、隊長の畠山昌典さんが連れて行ってくれたのは小川屋。熱々の鍋から口に運んだホルモンのプリッとした歯ごたえに、ニンニクの効いたスパイシーなしょうゆ味のスープが強烈に胃袋をつかみます。コショウをかければ一層深みが増し、硬めの岩泉豆腐と絶妙なハーモニー。
 食べやすいように小さくカットされたホルモンは臭みがなく、一度食べたら忘れられない味。お土産にぜひ「炭鉱ホルモン鍋のもと」をお勧めします。

てどの蔵

 宇霊羅山の麓、町の中心街にはうれいら通り商店街があり、昔ながらのたたずまいを残す商店や旧家が立ち並んでいます。その中の土蔵で岩泉伝統の手しごとの体験や見学ができると聞き、てどの蔵を訪ねました。
 「てどは岩泉の方言で手先の技術のことです。『てどが良い』というのは手仕事がうまい人、『てどが悪い』というのはちょっと下手な人のことを言いますよ」と案内してくれたのは、てどの蔵オーナーの工藤リセさん。
 子育てがひと段落したのを機に土蔵を片付け、山村に息づく伝統技術と知恵が集まる交流の場として2006年にオープンしました。毛糸つむぎ、わらぞうり、機織り、陶芸、木工、竹細工などが行われています。
 「ここに来ると岩泉の昔の話が聞けて、まぁ楽しい。昔はこうやって暮らしたんだなぁとか、うさぎやキジを獲った話とか」と工藤さん。手仕事のあとは“お茶っこ”が盛り上がります。
 悠久の時が流れる岩泉町。広大な森が長い年月をかけて育んだ澄んだ水のように、人々の心も潤しています。

■次回は宮崎県椎葉村です。

まちのデータ

人口
8402人(7月31日現在)
おすすめの特産品
龍泉洞のミネラルウオーター
短角牛、松茸
いわいずみ炭鉱ホルモン鍋
アクセス
JR盛岡駅から岩泉町役場まで車で
約2時間
問い合わせ先
岩泉町観光協会 0194-22-4755

いつでも元気 2022.10 No.371