青の森 緑の海
周囲を海や山に囲まれた土地では、考え方ひとつで世界の捉え方が変わる。沖縄には民俗学者の柳田國男氏が洞察したように、海は他の土地を遠ざけるのではなく「“海上の道”として世界をつなぐ」との考え方がある。
面白いのは海流や季節風の向きに合わせ、多方向から人や文化の流入があったということ。実際に沖縄の島々を旅してみると、人々の顔つきから多種類の民族がこの地に入って来ていることを実感する。
生きものの世界では、国を越えた大移動は人間以上に活発だ。例えば写真のエリグロアジサシは、繁殖のため夏に沖縄島にやって来る。それ以外の季節は、遠くインド洋からアジアにかけての国々で暮らしている。写真右下では、ちょうどオスが抱卵中のメスに魚をプレゼントしているところだ。
アジサシが営巣を放棄する原因の多くは、釣り人による岩礁への長時間の上陸。この岩場は釣りには適していないため、長い年月繁殖に利用されている。アジサシ類は自在に空を飛ぶが、卵を産み雛を育てる時は岩礁や砂浜を利用する。繁殖地が開発によって失われたり、餌の魚などに蓄積された海洋汚染物質によって卵のふ化率が下がると、一気に生息数が激減する可能性がある。
また旅鳥は、通過する複数の国の協力なしには生息環境を維持できないことも忘れてはならない。美しい鳥たちがやって来る季節を楽しみに待つ人々が世界中にいる。
エリグロアジサシも、環境省のレッドリストでは「絶滅危惧II類」に指定されている。
【今泉真也/写真家】
1970年神奈川生まれ。中学の時、顔見知りのホームレス男性が同じ中学生に殺害されたことから「子どもにとっての自然の必要性」について考えるようになる。沖縄国際大学で沖縄戦聞き取り調査などを専攻後、一貫して沖縄と琉球弧から人と自然のいのちについて撮影を続ける。2020年には写真集『神人の祝う森』を発表。人間と自然のルーツを深く見つめた内容は高い評価を受けている。
いつでも元気 2022.10 No.371
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