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いつでも元気

いつでも元気

ハーフタイム

増田剛(全日本民医連会長)

昔も今も高齢者いじめ

 10月から75歳以上の医療費自己負担が、1割から所得に応じて2割になります。「困る人が大勢いるだろうな」と感じつつ、自分が医師になった当初の衝撃を思い出します。
 私は1987年春に大学を卒業し、埼玉協同病院で初期研修を開始しました。その年の夏の話です。
 当時は、“医療費高騰が国を滅ぼす”(医療費亡国論)と大喧伝され、老人医療費の有料化や健康保険本人の窓口無料廃止など、国民に負担を強いる制度改悪が繰り返し行われました。加えて高齢者の長期入院などがやり玉に挙げられ、バッシング的な現象もしばしば見られるような状況でした。
 ある日、受け持ちの肺炎の高齢患者さんのところに行くと、突然「もう退院する」と言うのです。改善傾向とはいえ退院できる状態ではないので、「もう少し入院が必要です」とお話ししても、何としても帰ると言うのです。
 理由を聞くと、「自分のような老人が病院に長くいると若い人たちに迷惑がかかるんだろ? 息子も困っているに違いない」。私は唖然としました。医学部で肺炎の治療は学びましたが、こうした理由で治療を中断する患者への対応は教えられたことがありません。
 外来でも同様のことを何度も経験しました。「病院が“老人サロン”のようになっていると、テレビで放送していた。来ちゃいけないんですか?」。長年身を粉にして、戦後の復興を支えてきた方々です。「この国の医療政策は、どこかおかしい」─。新米医師の疑念と憤怒は、35年間経った今も続いています。
 コロナ禍で日本全体が大変な思いをしましたが、中でも高齢の感染者のいのちが軽んじられたという事実を忘れてはなりません。
 感染爆発で重度の呼吸不全に陥る患者が増え、人工呼吸器や重症者用のベッドが足りなくなる事態が起きました。やむなく高齢者が後回しにされ、多くの人がいのちを落としました。あってはならない「いのちの選別」です。医療・介護従事者にとっては耐え難いことです。
 誰もが歳を重ね高齢者になります。高齢者への眼差しは、未来の自分への眼差しに他なりません。「有限の資源だから仕方ない」と割り切って、いのちに優先順位を付けるようになったら…。これは高齢者だけの問題ではないのです。
 75歳以上の医療費2割化にとどまらず、年金削減や介護サービスの低下も続いています。真綿で首を絞めるように、社会保障費をじわじわと削るのはなぜか。政府が言うように防衛費を2倍にするなら、生活のあらゆる面で権利が奪われるのは間違いありません。

いつでも元気 2022.9 No.370